「残業したくないんですよね」「それって僕の仕事ですか?」「飲み会ダルいんで行きたくないです」「そのやり方タイパ悪くないですか?」
指示は素直に聞かず、指導をすれば「それってパワハラですよね?」と口答え。世間は「価値観のアップデート」を強いてきて、Z世代への指導はどんどん弱腰になってしまう。好き勝手にふるまうZ世代部下のおかげで、職場の空気は弛緩する一方です。つけあがってさらにモンスター化するZ世代部下は、あらゆる職場に出現し、管理職を困らせています。そんな現状に、ビジネスライターの黒坂岳央さんは「Z世代を甘やかしてはならない」と警鐘を鳴らします。Z世代部下にかき回された職場を正常化するために、Z世代を甘やかさない、毅然としたコミュニケーションを身につけましょう。
書店に足を運べば、マネジメントに関するビジネス書が平積みされている。その多くは、「Z世代の価値観を尊重しよう」「風通しのいい職場にするため、心理的安全性を確保せよ」などというアドバイスであふれかえっている。しかし、現場では、そのような甘ったれた助言は通用しない。とくに、近年ビジネス界で流行している「心理的安全性」という言葉は曲者だ。本来、組織論における「心理的安全性」とは「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる不安なしに、意見を言い合える状態」を指す。これは、組織のパフォーマンスを最大化し、イノベーションを生むための土台であり、時には激しい議論や厳しいフィードバックを伴う、極めてタフな環境である。
しかし、Z世代部下はこれを「誰も不快な思いをしない、叱られない、ぬるま湯のような環境」だと完全に勘違いしている。Z世代部下は少しでも自分の思い通りにならないことがあると、「この職場には心理的安全性がない」「上司が高圧的だ」と被害者のポジションに逃げ込む。本来、成果を出すための手段であるはずの心理的安全性が、彼らにとっては「自分を甘やかしてくれる環境の要求」にすり替わっているのである。
Z世代部下たちと対峙する40代を中心とする管理職は今、最も深い絶望と疲弊を味わっている。内閣府が定期的に実施している「満足度・生活の質に関する調査」によると、日本の年代別幸福度は見事な「U字カーブ」を描き、20代の若年層と60代以上の高齢層の幸福度が比較的高く、40代から50代にかけて幸福度が底を打つのである。特に40代男性の幸福度は、最も幸福度が低い。彼らは文字通り「日本で最も不幸な層」と言える。
なぜ彼らはそれほどまでに幸福度が低いのか。
現在40代前後のサラリーマンの新人時代は、今なら一発でアウトになるようなパワハラ指導も、「若いうちの苦労は買ってでもしろ」「石の上にも三年だ」という精神論で正当化されていた。筆者は派遣社員だったので、色んな会社に派遣されていたが、どの会社でも正社員は毎日残業をしており、衆目の中上司から怒鳴られたり、耐えかねてそのまま退職していく人もいた。みんな余裕がなく、ストレスが溜まっていたのだ。
そして「今は苦しくても耐え抜けば、いつか必ず報われる日が来る」と信じ、ようやく組織の中核を担いだした時、時代は180度転換してしまった。働き方改革、コンプライアンスの厳格化、そして未曾有の人手不足による超売り手市場の到来である。
すると今度は「部下に理不尽を強いてはいけない」「若手の機嫌を取れ」という新たなルールの下で、Z世代から「配慮が足りない」と突き上げられる。部下時代も、管理職になってもストレスにさらされる。これが、日本一不幸な40代の正体である。
Z世代部下は事あるごとに「この職場には心理的安全性がない」「上司の言い方がきつくて心理的負担が大きい」と声を上げる。彼らにとっての心理的安全性とは、本来の「無知や無能を晒しても罰せられず、率直に意見を言い合えるタフな環境」のことではない。単に「自分が不快な思いをしない、誰からも厳しいことを言われず、無条件で承認される温室」という致命的な誤訳にすり替わっている。そして最も深刻な問題は、Z世代の求めるこの「ぬるま湯のような心理的安全性」を担保するために、一体、誰の精神が削られているのかという点である。答えは明白だ。氷河期世代の管理職たちの精神である。
現代の管理職にとって、部下への「指導」はもはや教育ではなく、自らのキャリアを脅かす特大の「リスク」と化している。部下が明らかなミスを犯し、それを論理的に指摘しただけでも、相手が「傷ついた」「攻撃された」と感じれば、それは直ちに「パワハラ」として人事部に告発されるリスクをはらむ。Z世代はSNSを通じて「被害者ポジションをとれば勝てる」というハックを熟知しており、少しでも自分に都合が悪い指導を受ければ、「退職代行を使って辞めます」「労基に駆け込みます」というカードを平然と切ってくる。
一方の企業側も、人材流出とSNSでの炎上を極度に恐れている。経営層や人事部から管理職に下される至上命題は「とにかく若手の離職率を下げること」である。部下が辞めれば「お前のマネジメントが悪い」と管理責任を問われ、評価が下がる。この八方塞がりの状況下で、管理職は自己防衛のために異常なまでの自省と配慮を強いられることになる。Z世代が享受している快適な無菌室は、管理職たちの心理的安全性を生贄に捧げることでしか成立していない、極めていびつなゼロサムゲームの上に成り立っているのだ。