真中流マネジメント

三木肇ヘッドコーチが語る真中ヤクルト③
~選手とは常に本気で向き合うことが大切~

2017.06.09 公式 真中流マネジメント 第29回
「アンテナ力」を磨けば、新しい視点が生まれ、
新しい視点は、新たな感性を育ててくれる

また、選手たちには「アンテナ力」も求めています。この言葉は僕の造語なのですが、つまりは「洞察力」や「観察力」のことです。でも、選手たちに「洞察力」と言っても、あまりピンと来ていないようでした。ですから、彼らにも伝わりやすいように「アンテナ力」という言葉を選びました。これもまた、選手たちとつき合うためのひとつの方法です。

せっかく、伝えたいことがあっても、言葉の選び方によって、伝わり方は大きく変わってきます。何か伝えたいことがあるときには、なるべく彼らに伝わりやすい言葉に変換して、向こうが聞く耳を持っているタイミングで真剣に伝えるようにしています。ベテラン選手には彼らの考えを尊重しつつ、僕の意見をそれとなく伝えることもあります。一方、若手選手に対しては、何気ない雑談の中から、さりげなく言葉を選んで伝えるようにすることもあります。

昔の携帯電話、あるいはラジオのアンテナを思い出してください。アンテナを伸ばしたり、短くしたりすることによって、さまざまな波長の電波を受信することができます。あるいは、強い電波も弱い電波もあるでしょう。多方面にアンテナを張り巡らせていれば、それらを逃さずにキャッチできます。選手たちには、そんなことを求めています。いろいろな電波を受信して、物事をいろいろな角度から見てほしいんです。常に「なぜだろう?」という意識を忘れないでいてほしいんです。

たとえば、ここに一個のグローブがあります。基本的に自分の手にはめた状態でグローブを見ることが多いものですが、これをあえて下に置いて見てみる。あるいは、天井からぶら下げた状態で眺めてみる。すると、「あれ、下から見るとこんな形をしているんだ」と、普段とは異なる独特の見え方に気がつくこともあるでしょう。こちら側から見る、あちら側から見る。そんなことをしていると、今までにない新しい「何か」を感じるかもしれません。

それが、そのままプレーに直結したり、技術向上に結び付いたりすることはないかもしれない。けれども、多角的に、多方面から物事を見るという習慣が身についていれば、ピンチの場面やとっさの判断が求められるときに、何か役立つかもしれない。僕はそのように考えています。「アンテナ力」を磨くことで、新しい視点を獲得することができる。そして、その新しい視点は新たな感性を育ててくれるのです。それが、正しいか、間違っているかは関係ありません。大切なのは、その意識を持つことだと思います。

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プロフィール

真中満
真中満

1971年栃木県大田原市出身、宇都宮学園高等学校を経て日本大学卒業後1992年にドラフト3位で東京ヤクルトスワローズに入団。
2001年は打率3割を超えリーグ優勝、日本一に貢献。2008年現役を引退。
2015年東京ヤクルトスワローズ監督就任1年目にして2年連続最下位だったチームをセ・リーグ優勝に導く。
2017年シーズン最終戦をもって監督を退任。

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