ビジネス書業界の裏話

役に立つ本を書く作家になるのか、必要な本を書く作家になるのか

2016.07.28 公式 ビジネス書業界の裏話 第12回

世の中には3種類の本がある

「役に立つ本」と「必要な本」、それに「役に立って必要な本」である。
さらに、少しアングルを変えてみると、役に立つ本には「役には立つが必要でない本」があるし(これはものすごく多い)。必要な本には「必要だが役に立たない本」もある。
それなら「役にも立たず必要でもない本」もあるではないかとなるが、それはもはや本ではない。読者がいない本は、本ではないからだ。

何が役に立つのか、立たないかは、昔から議論の的になるテーマである。
無用の用という言葉もある。
そのため、ヒマつぶし、気休めでも役に立っているという見方もできようが、ここでは話の進行上、乱暴だが人生や生活、仕事、勉強など実用・実務に結び付かないものは役に立たないとする。なにしろビジネス書作家のためのブログなのだから。
ただし、お断りしておくが、ヒマつぶし、気休めに過ぎない本を否定しているわけではない。ヒマつぶし、気休めであったとしても、それを必要とする読者はいる。しかも、たいてい熱烈に必要としている。
役に立とうと、立つまいと、熱心な読者がいれば、それは立派な本である。

「役に立つ本」のジャンルとしては、学参、受験参考書、資格取得、実務本、実用書、専門書などであろう。無論、ビジネス書はここに入る。
いずれも生活や仕事、勉強の役に立つ本である。役に立つ本であれば、当然、読者にとって必要な本だろうと思いたいが、必要とする人は意外なほど少ないのが現実だ。
本気で必要と思っているのは、実は当の作家だけということも珍しくない。
たしかに読めば役には立つだろうが、いまの自分には必要ない、とされることが多いのがこの「役に立つ本」の置かれた境遇である。

役に立つ本は読者の居場所と数がわかる

「役に立つ本」の読者は見える読者である。受験参考書の読者は受験生であるし、相続税や節税の本の読者はある程度の資産家と見ることができる。
「役に立つ本」が、実際、役に立つのは、読者の置かれた状況次第なので、受験参考書は入試が終わるとともにブックオフへ持って行かれることになるし、会社をリタイアしたビジネスパーソンにとって、ビジネス書は関心を寄せる対象ではなくなる。

しかし、このことは、役に立つ本の読者は新陳代謝を続けながらも、常に一定の数がいるということを意味している。相手変われどぬし変わらずなのが、役に立つ本なのだ。
読者が見えているので、出版社はつくりやすい。おそらく新刊の発行点数、発行部数ともに常に「役に立つ本」が最も多いはずである。
しかし、そのため類書も多く競合が激しい。
「役に立つ本」は、作家としても、知識があれば書ける本なので書きやすい。
しかし、それは多くの新人作家が参入しやすいということでもあるので、かえってデビューを狭き門にしている。
したがって、新人作家がデビューするには、常に新鮮なメソッドが求められるのだ。

「役に立つ本」に対して「必要な本」がある。
それは人によって異なる。自分には村上春樹氏の作品が必要だ、という人もいるだろうし、猫や犬の写真集に癒される人もいるはずだ。コミック、ゲーム攻略本だって必要な人には必要な本である。
「必要な本」には、具体的に何かの役に立つという現世利益的なことはないが、必要な人にとっては欠くことができない。
「必要な本」は、いわば「相手変わらずぬし変わらず」であって、同じ読者が歳を重ね状況が変わっても読み続ける本である。「必要な本」は、時代や状況がどう変わろうとも、私が私である限り、必要なのである。
「必要な本」とは、「私にとって」必要な本であり、「役に立つ本」とは。「そのときに」役に立つ本だといえよう。

ちなみに、ビジネス書の作家はとかく「役に立つ本」ばかりを重視し、追求しがちである。しかし、どれだけ役に立つかを競うばかりでなく、ときには、それが読者にとって「必要な本」なのかという視点を合わせ持つことも大切と思う。

ビジネス書で必要とされる本は、すなわち、「役に立って必要な本」ということになる。
昔から座右の書といわれるような本が、「役に立って必要な本」である。人生の師であるメンターは教え導いてくれる人であるが、「役に立って必要な本」はブックメンターといえよう。
稲盛和夫氏やピーター・ドラッカーの経営論を座右の書にしている経営者は多い。その人の一生の仕事を行うために必要なビジネス書は、まさに「役に立って必要な本」である。
もうひとつ、生き方や信条を決め、人生に役立つ、読者にとって生きる糧となる本も「役に立って必要な本」であろう。
こうした本は、必要なときは必要だが、ときが過ぎれば無用となる本ではない。
「役に立つ本」は、A氏にもB氏にも役立つが、「必要な本」はA氏にもB氏にも必要とはならない。読者を選ぶ本なのである。
したがって、「役に立って必要な本」も、読者を選ぶことになる。
しかし、読者を選ぶといっても、わが国では1万人にひとり読者がいれば、1万2千部の本であり、千人にひとり読者がいれば、その本は12万部の本となる。
けっして少ない数ではない。

「役に」立つ本を書ける作家はたくさんいるが、「役に立って必要な本」を書ける作家は多くない。
ビジネス書作家を目指す人には、ぜひ「役に立って必要な本」の書ける作家になってもらいたい。

次回に続く

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プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

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