ビジネス書業界の裏話

ビジネス書も「時代は繰り返す」ものである

2016.09.08 公式 ビジネス書業界の裏話 第15回

古書店はアマゾン以前のロングテール

テーマが繰り返すのは、ビジネス書だけではない。

『一分間勉強法』(石井貴士著 中経出版)というベストセラーがあったが、「勉強法」というテーマは、実に戦前から存在する。
鳩山由紀夫元総理のお父上の鳩山威一郎氏だったと思うが、当時、東京帝国大学で、もうひとりの秀才と常に首席を争っていた。なぜかふたりの首席争いは、世間の注目を集めることとなり、ふたりの成績はニュースにまでなったらしい。
そして、そのころに出版された本に『秀才の勉強法』というのがあった。
上記は出典が見つからないので細部は不確かだが、「勉強法」というテーマは実に伝統のあるテーマだということである。

「健康法」や「健康術」については、いわずもがなである。
とくに時代が戦雲急を告げるころになると、肉体改造(昨今流行しているジャンルの1つであるが)の本がたくさん出版されていた。
「片づけ」というテーマは、戦前の婦人雑誌が年末になると必ずやる定番の特集であった。

かくてテーマは繰り返す。
「アドラー」も、何10年か後に再びブームとなるかもしれない。

「ロングテール」という概念は、「アマゾン」などのネット書店の登場によって現れたように見えるが、この言葉が世間に流布し出した当時から、私は「ロングテール」は以前から出版界にあった、古書業界は昔からロングテールだったと言っていた。

それはともかく、古書店にある本は、過去に誰かが買った本である。
「アマゾン」の中古本、「ヤフオク」に出品されている本も、確かに読者がいたという実績のある本である。
売れるか売れないか定かでないテーマの本よりも、実績のあるテーマに倣(なら)ったほうが勝率は高いのではないかと考えるのは、そう不合理な話ではない。
しかし、ほとんどの編集者は、残念ながら「このテーマは10年前にベストセラーでした」といわれても、たぶん見向きもしない。編集者の9割は「いま売れている本」にしか関心が向いていないからだ。
したがって、古書からテーマを見つけるのは、作家自身にとってのネタ探しに止めざるを得ない。
編集者には、どこで見つけたかは伏せたまま、過去のテーマを現代風にアレンジした後に示したほうが賢明である。

次回に続く

 

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プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

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