ビジネス書業界の裏話

本の定価はどうやって決まるのか

2016.11.24 公式 ビジネス書業界の裏話 第20回
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上製本は本当に上等か

先ほど述べた『あの日』(小保方晴子著 講談社)は上製本である。作家の中には「自分の本は上製本にしてほしい」という人がいる。概してオールドタイプの作家に多い。本には上製(ハードカバー)と並製(ソフトカバー)がある。これは単に表紙の紙の厚さと硬さの違いに過ぎないのだが、世間の人たちは、上製本のほうがクラシックで高級なものと見ている。

上製本は高級な本だから、高価でも仕方がないという認識である。「小保方さんの本は、上製本だから高いのね」といっていた人もいた。

しかし、原価としては上製本と並製本は、表紙の紙の材料費が違うくらいで、その他についてあまり変わりはない。その差は1冊あたり数10円程度であろう。上製本の定価が高いのは、制作費が高いからではなく、高い定価をつけたいから上製本にしているというほうが現実に近い。

もうひとつ、販売戦略全体からいえば、作品や作家の権威をアピールするために、上製本という高級感のある装丁を選んでいるのだ。そもそも上製本とは、本を長持ちさせるための造本技術である。表紙を厚く丈夫にしたのも、本体を太い糸でかがった(現在では並製本と同様、接着剤で固めている)のも、100年読み継がれるための工夫だった。

つまり、上製本にするとうことは、その作品が100年読み継がれるような名作であるというメッセージでもある。

作家としては、自分の作品を名作として扱われることは、気分の悪いことではないだろう。しかし、それはいわば「この本は名作です」と自らアピールしているようなものである。本来、その作品を名作かどうか決めるのは、読者であって作家や出版社ではない。いかなる装丁であれ、読者に支持される本はよい本である。

作家自身は、あまり上製、並製にこだわる必要はないように思う。

 

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プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

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