ビジネス書業界の裏話

2017年ビジネス書市場5つの疑問

2017.02.23 公式 ビジネス書業界の裏話 第26回
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書店もリスクを負って本を並べる

ビジネス書市場というのはどこにあるのかというと、簡単にいえば書店店頭にあるということになる。実際の市場としては、アマゾンもあればその他の電子書籍もあるし、規模は(現在のところ)大きくはないが古書市場もある。しかし、やはり本の販売量で圧倒的に大きいのはリアル書店の店頭である。

その書店の店頭で、10年ぐらい前から見かけるようになった奇妙な光景がある。それは、ときたま、あまりマークしていない(それほど売れているとは思えない)本が、書店の平台に山積みになっていたことだ。山積みになっている本を見ると、わたしが知らないだけで、この本もベストセラーなのかなと思うのだが、調べてみると必ずしもそうではない。この山積みの本は、どういう理由で山積みになっているのか、わたしは長いこと疑問だった。

本は場所によって売れ方が異なることがある。ビジネス書の場合、郊外型書店より都市部の書店のほうがメインの市場であるが、都市部の書店でも、有楽町・大手町と日本橋とでは、本の売れ行きに若干の違いが出る。したがって、特定の本が特定の書店で売れるという現象は珍しいことではない。

とはいえ、平台に山積みするほどの本というのは、わたしの感覚としては40万部を超えるような勢いのあるベストセラー本である。なぜなら、それくらいの力のある本でなくては、広いスペースをひとつの本で占めるというのは、書店にとってリスクがあり過ぎるからだ。もし、平台が450冊の本を置けるスペースであれば、30点×15冊が置ける。30種類の本を置けばリスクは分散され、1点当たり1日、1冊でも30冊の売上となる。ところが、1点×450冊では1日1冊で終わることだってある。

それでは書店は大損なので、村上春樹の新刊のような本ならば山積みはしても、その他は売上が見込める話題のベストセラー以外は、大量に仕入れて店頭の一角を占有するということはない。だから、店頭で山積みされている本のほとんどは、押しも押されぬベストセラーなのだが、ときどき、けっして話題になっているともいえず、売れ行きもそれほどとは思えない本が書店でかなりのスペースを占めていることがある。これが不思議なのである。

それで今回、本稿を記すにあたって、この山積み本の理由を含め、いままで疑問だったことを、まとめて何人かの関係者に聞いてみた。結果、わかったのが次のことである。

書店で山積みされている本の裏側

結論からいうと、本が書店に山積みされている理由は「売れている本だから」ではなく、「売りたい本だから」である。売りたい本というのは、いま売れている本を「さらに売りたい」というケースと、出したばかりの新刊で、まだ売れるか売れないかわからないが、出版社としては「強く売り出したい」という2つのケースがある。

わたしが奇妙に感じたのは、後者のケースだった。

前者のケースは売れゆき良好な本なので、書店のほうから求めることもある双方向性だが、後者のケースは出版社側から提案し、それに書店が同意するという一方向だけである。書店にとって前者はリスクが小さく、後者はかなりのリスクを伴うからだ。したがって、後者のケースは書店と出版社の信頼関係がモノを言う。お金を積んだらできるのかという話ではない。

山積みされている本の高さが示しているのは、売上高ではなく、書店と出版社の信頼関係の高さ(強さ)なのである。

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プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

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