ビジネス書業界の裏話

2017年ビジネス書市場5つの疑問

2017.02.23 公式 ビジネス書業界の裏話 第26回
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電車の額縁広告は売れているから出しているのか

電車の中吊り広告は、雑誌と文庫の広告スペースという認識があるが、額縁広告(車体のドア脇の壁の広告)となると、都内では、エステや学習塾、サプリメントあたりが常連なので、ときどき書籍広告が出ると「おっ」と思うことがある。

わたしは、図書広告は新聞という時代に生きてきた人間なので、電車の額縁広告までやるというのは「この本は相当売れているのか」と思ってしまう。では、本当に額縁広告に出ている本は売れているのだろうか。これも、関係者に聞いてみた。

結論は前項とあまり変わらない。広告に出している本は、売れている本ではなく、売りたい本である。この売りたいという主体は、出版社だけ(潜在的には作家も入る)だ。電車の額縁広告も他の媒体と同様、年に何回という枠を押さえていることが多い。枠で広告スペースを押さえている場合、そのときにベストセラーがあってもなくても、広告主である出版社としては広告を出さざるを得ない。

このケースでは、そのときの事情に応じて出版社が適当な作品を選んで出しているので、必ずしもベストセラーというわけではない。

ひところ増えたビジネス新書・文庫はどうなったのか

話が10数年前に端を発することばかりだが、ビジネス新書・文庫が盛んに発刊されたのも、やはりその頃だったと思う。最近はビジネス新書・文庫のベストセラーが見当たらないせいか、影が薄く、なんだか各社ともすこし力を抜いているのではないかという印象がある。だが実際のところはどうなのか。

これは調べればわかった。ビジネス新書・文庫は、注目を集めるようなベストセラーがないだけで、新書・文庫自体はレーベルを含め着実に増え続けている。目立たないだけなのである。目立っていないということが、状況の悪さを示すかというと必ずしもそうとはいえない。単行本なら目立つには5万部以上、新書・文庫となるとそれ以上でないと世間が注目する本とはならない。しかし、今日、5万部の文庫・新書は十分に売上良好書といえる。隠れた良好書は競合が参入してくることもないので、出版社の経営にとっても安定した良好書なのである。

仮に、そこまでうまい具合にことは運んでいないにせよ、発行点数が増えていることは、作家にとってもチャンスが増えていることであって悪い話ではない。

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プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

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