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社長が人事を兼ねているベンチャーや中小企業で、陥りがちな間違った人事ジャッジ

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社長の独断による抜擢は逆効果

ベンチャーや中小企業には「人事部」という部署がなく、社長が人事を兼ねていることがあります。大企業の人事はどちらかというとロジカルな世界で、仕組みも確立されていますが、小さな会社では社長が直感で人事に口を挟みがち、決めがちです。

これがすべて悪いわけではないですし、よい面もたくさんありますが、今回はそういう場合に陥りがちな、間違った人事ジャッジについてお伝えしたいと思います。

まずは「抜擢」です。社長は、目立つ社員、成果を出している社員がいたら、たとえ若手であっても部長などの要職に抜擢したりします。そうすれば、他の社員も「よし俺も頑張るぞ!」と奮い立つだろう、「もっと頑張ってくれるだろう」と考えているのです。

しかし、これがかえって逆効果なことが多々あります。「なんであいつが!?」「社長に気に入られているからねぇ」「もっと他に頑張っているやつがいるだろう!」と周囲から反感をかったり、嫉妬され、むしろ他の社員のモチベーションが下がってしまうケースがあります。

抜擢された若手自身も、仕事はできても、まだまだ人を育てられなかったりします。そのため余計に周囲の反発を招いて、本人も行き詰まってしまい、結果的に会社を去ってしまうことさえあります。

社長の独断だけによる抜擢は、失敗することが多いと言えます。気をつけてほしい人事ジャッジのひとつです。

エースで四番を管理職に

また、抜擢でよくあるのは、営業成績トップなどの「エースで四番」的な社員を管理職に登用することです。「エースで四番」を部長などに抜擢すると周囲も納得しやすいのですが、優秀なプレイヤーが優秀なマネージャーになれるとは限りません。

自分と同じ活躍を部下に要求して部下が疲弊する。あるいは、マネジメント力がないから本人が疲弊する。そんな悲劇が起こりがちです。

エースで四番はプレイヤーとしては優秀であっても、コーチや監督として優れているわけではありません。管理職にするなら、管理職としての教育が必要です。

また、管理職になってもプレイヤーとして仕事を続け、マネジメントをまったくしない。逆にマネジメントに専念することになったため、会社の売上が激減。そういうケースも多く、どちらの場合も会社にとってプラスになりません。

本人にとってもプレイヤーとしてずっと活躍できたほうが幸せだったりするのですが、中小企業やベンチャーでは、管理職にならないと給与が上がらないことが多く、エースで四番をきちんと処遇する制度がない場合も多くあります。

エースで四番を活かすには、マネージャーとプレイヤーを上下ではなく、並列の関係にすることも考えられます。「管理職になったら年収が上がる」という制度だけでなく、優秀なプレイヤーにも、同レベルの高待遇をする仕組みを考えるべきでしょう。

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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