人事はあなたのココを見ている!

社長が人事を兼ねているベンチャーや中小企業で、陥りがちな間違った人事ジャッジ

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社長のマイブームに気をつけろ

また、オーナー社長にありがちな「マイブーム」にも要注意です。あるとき「こいつはいい」と思った社員がいると、いきなり重用する。重用して、重用して、ミッションを与えて、与えて、どこかで砕けると、突然「もういらない」と飽きてしまう。

好きになりすぎて、嫌いになってしまう。社長のマイブームにはそんな傾向があります。
社長に評価されるのは大事なことですが、近づきすぎてしまうのは危険です。

社長のマイブームになって重用されたものの、最終的には飛ばされてしまった、会社を去ることになってしまった、私はそんな人をたくさん見てきました。

社長は、社内のことをいちばんわかっているようで、実はよくわかっていなかったりするものです。メンバー数名のベンチャーならともかく、80名を超えるぐらいの規模の組織になったら、社員一人ひとりをちゃんと見ることができるマネージャーが必要です。部長が4名、課長が10名くらいいれば、組織はきれいにまわります。

そういう管理職をしっかりつくらないと、組織は成長しません。

お金でモチベーションは買えません

もうひとつは、お金です。給料を上げれば、社員のモチベーションが上がる。そう考えている社長が少なくないのですが、お金でモチベーションは買えません。

決算賞与を50万円渡したら、社員がものすごく喜んだ。「社長ありがとうございます」というメールもたくさん来た。ところが、翌年も50万円あげたら、さして喜ばれずメールも来なかった。翌々年も50万円だと「少ない!」と文句を言う社員が出てきた。こういう話をよく聞きます。

ボーナス、昇給、インセンティブ、福利厚生…。社長は社員のやる気を高めるために、さまざまな施策を考えますが、お金でモチベーションが買えるのは最初だけ。

すぐに当たり前になり、翌年も同額だったりすると、かえってモチベーションが下がったり、不満を持ったりして、持続しません。社員に適切な報酬を与えるのは大事なことですが、お金の使い方には気をつけなくてはいけません。

昇給についても「一度上げた給料は下げたくない」と考える社長が多いのですが、高齢化する社員の給料を一律に上げ続けていったら、どうなるでしょうか?

給与を上げるだけでなく、下げる仕組みも考えないと、経営は破綻します。実際それで立ち行かなくなっている企業がたくさんあります。

住宅手当や家族手当といった福利厚生も、社員のモチベーションを高める有効な施策になるとは限りません。手当は、もらえる人ともらえない人が出てくるため、これも不満の温床になったりします。そのうえ、一度付けてしまうと外せなくなります。

お金にまつわる施策を打つときは、相当慎重に考える必要があります。

「社員の給料を上げるぞ。そうすれば、みんなもっとやる気になるだろう!」
「優秀なやつにはインセンティブも出すぞ!」
「住宅手当や家族手当もつければ、応募者がもっと増えるだろう!」

社長がそう言い出したときは要注意です。「社長ちょっと待ってください!」と止める勇気も必要です。あなた自身が社長だったら、一度よく考えてみてください。

次回に続く

 

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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