社員成長の決め手は、人事が9割

「今まさに『人事』が重要!」――理解しつつも何もしてない会社が7割

2つのキーワード「戦略人事」「人的資本経営」が流行っている理由

今まさに人事が必要な理由として注目されているのは、「戦略人事」と「人的資本経営」という2つのキーワードです。筆者はこの言葉を最近よく目にすることについては、「何を今さら」と思ってしまうところもあります。だって「人事」は「戦略そのもの」でしょうし、「人的資本経営」という考え方は20年以上前から既に使われていましたから。しかし今、なぜこれらの言葉が流行っているのか、その理由について考えてみましょう。

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戦略人事とは、「企業経営において経営戦略と人材マネジメントを連動させることによって競争優位を目指そうとする考え方。および、それを実現させるための人事部門の機能や役割などを示す概念」といわれています。

要は、会社の将来を見据えて人事施策を描くこと。「人事にも戦略が必要だよね」「競合他社に勝つために人事部門も貢献しないとダメだよね」という考え方です。

一方、人的資本経営とは、「人材を“資本”として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」といわれています。

要は、人件費を「コスト」ではなく、社員を投資価値のある「資本」として捉えて、人に投資をして、生産性を高め、企業の価値を上げていこう、という考え方です。

なぜこの2つの言葉が話題になっているのかというと、みなさんもご承知の通り、日本の「生産性」や「給与」の低さが大きな課題になっているからです。

日本の労働生産性は、G7(主要先進7カ国)で最下位です。2021年にはOECD(経済協力開発機構)加盟国でも38カ国中27位に転落しました。これはデータが比較可能な1970年以降、最低の記録です。

賃金も低迷を続け、約30年間ほとんど上がっていません。現在の日本の平均年収はアメリカの半分以下。欧米先進国との差は開くばかりで、OECDでも下から数えた方が早い24位。韓国やシンガポールにも追い抜かれてしまいました。

これまでと同じように企業経営をしていたら生産性は上がらない。給料も上がらない。会社も成長しないし、日本も成長しない。このままではまずい…。日本全体が、特に政府がそう言い出していて、今改めて「人事」に注目が集まっているわけです。

なぜ7割の会社は「戦略人事」ができないのか?

では、実際に「戦略人事」や「人的資本経営」ができている会社は、どれくらいあるのでしょうか。のべ5200社、5,441人の企業人事を対象に調査した「日本の人事部 人事白書2022」(株式会社HRビジョン)の結果を見てみましょう。

「戦略人事は重要である」に「当てはまる」(56.2%)「どちらかといえば当てはまる」(30.5%)と回答した企業や人事は、合計86.7%。9割近くにものぼります。

しかし「人事部門が戦略人事として機能している」に「当てはまる」と回答したのは、わずか6.1%。「どちらかといえば当てはまる」も23.8%で、約7割の企業や人事が「当てはまらない」「どちらかといえば当てはまらない」と回答しています。

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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