社員成長の決め手は、人事が9割

「今まさに『人事』が重要!」――理解しつつも何もしてない会社が7割

また「経営戦略を実現する上で、人事部門に求められるゴール(目標)が定義されている」は、「当てはまる」(9.5%)と「どちらかといえば当てはまる」(28.6%)を合わせても約4割だったのに対して、「当てはまらない」(30.0%)と「どちらかといえば当てはまらない」(29.8%)は、全体の6割近くを占める結果となっていました。いったい人事部門は何を目指して仕事しているのでしょう。心配になりますね。

さらには「経営戦略を実現するために必要な人材を、人事部門が採用、配置、育成できている」も、「当てはまる」(4.4%)と「どちらかといえば当てはまる」(26.0%)を合わせても約4割なのに対して、「当てはまらない」(33.2%)「どちらといえば当てはまらない」(34.5%)は、全体の6割を超える結果となっていました。

人に投資をしていくためには経営戦略が必要ですが、人事部門が経営戦略の意思決定に関与していない、経営戦略を実現する上で人事部門に求められる目標が定義されていない、経営戦略を実現するために必要な人材を人事部門が採用・配置・育成できていない…となると「人的資本経営」は難しいと言わざるを得ません。

前回もお伝えしたように、社員数100名くらいまでの中小企業には、ほぼ人事部門がありません。給与計算や採用手続きなどの人事業務しかやったことにない人に、いきなり「戦略を考えろ」といっても無理な話です。人事部門のない中小企業には、そもそも「戦略人事」や「人的資本経営」をできる人材がいないのです。

業績のいい企業は「戦略人事」や「人的資本経営」を行っている

人事部門がある大きな企業ですら、人事部門のリソースが足りない、業務に追われて取り組む余裕がない、経営陣が戦略人事を求めていない、人事部門の目標すら決まっていない…といった様々な要因によって戦略人事に取り組めていないようです。そもそも「何をすればわからない」という声が4割近くを占めていました。

とはいえ、これまで通りのやり方では、生産性も上がらず、競争力も上がらず、給与も横ばいのまま、企業経営は今後ますます厳しくなっていくでしょう。

今回紹介してきたグラフを改めて見返してみてください。市況と比較した業績別のデータが載っています。こちらを見ていただければ、業績のいい企業ほど「戦略人事」や「人的資本経営」に取り組んでいることがわかります。

「戦略人事」も「人的資本経営」も、特に新しい考え方ではありません。人事という分野では本来、戦略が必要なのです。「人事・採用」「給与・厚生」「育成・評価」、これらが人事分野の3本柱ですが、そのすべてに戦略が必要であることは、人事業務をひと通り経験してきた人にとっては当たり前の考え方です。

また、人材を「コスト」ではなく投資すべき「資本」と考えるのも、人事制度においては常識です。人は資本であるからこそ、経営戦略を踏まえた上で採用し、育成・評価し、その投資価値に対するリターンとして給与額を決める必要があるのです。

ですから私としては、何を今さら「戦略人事」とか「人的資本経営」なんて格好つけた言い方をして騒いでいるのだろう…というのが正直な気持ちなのですが、それくらい多くの企業では「人事」の重要性が理解されていなかったのだと思います。

そもそも人事というのは、どのような職務なのか。まずはそこから理解していただくことが「戦略人事」や「人的資本経営」の第一歩となるはずです。次回は「人事をきちんと据えることが、いかに重要か」についてお伝えしたいと思います。

次回につづく

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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