社員成長の決め手は、人事が9割

なぜ多くの会社は、問題だらけなのに「人事」部門を作らないのか

社員数100名以下の多くの企業には「人事」という部門は存在しない

社員が定着しない。優秀な人材が辞めていく。採用がうまくいかない。評価制度が曖昧……。
あなたの会社では、そんな問題が起こっていませんか?

Getty Images

社員を定着させるためにも、優秀な人材を確保するためにも、採用を成功させるためにも、評価制度をきちんと運用するためにも、重要なのは「人事」です。会社経営を成功させる鍵は、人事によって9割が決まるといっても過言ではないでしょう。

なぜなら、これらはすべて「人」に関する問題だからです。
人事とは、読んで字のごとく「人」に関することを専門に考える分野です。採用、配置、教育、評価…。ある程度の規模の企業では、これらすべてを人事が担っています。

一方、社員数100名くらいまでの中小企業には、ほとんど人事部門はありません。社長が自ら人事を行い、給与計算や請求書、社会保険などの煩雑な手続きだけは、経理や総務の人が手伝っている会社が大多数です。ただ、こんな声が挙がっている企業も少なくありません。

「うちの会社、このままじゃまずいんじゃないの?」
「やっぱり人事部って必要だよね」

社長も含め、経営層はみんな「やらなきゃいけない」と頭ではわかっているものの、なかなか手をつけることができない。優先度・緊急度が低いために、ついつい後回しにしてしまう。それが「人事」という部門の現実でもあります。

私は人事のプロとして30年以上、多くの会社の成功例・失敗例を見てきました。失敗例の中には、人事施策の遅れが原因になっているケースも数多くありました。

なぜ人事は後回しにされるのか。そのままにしておくとどんな問題が起こるのか。人事部門を立ち上げるとしたら何から手をつけたらいいのか。

この連載では、そんな疑問にわかりやすくお答えしていきたいと思います。

人事部門の優先順位が低い理由

会社にとって本来重要なはずなのに、なぜ人事は後回しにされてしまうのか。まずはこの疑問を解決するために、人事の全体像をざっくりと見てみましょう。

人事の全体像

人事とひとことで言っても、実は非常に幅広い領域があります。大きく分けると、「人事・採用」「給与・厚生」「育成・評価」という3つの分野があり、それぞれに「戦略」「企画」「運用・管理」「オペレーション」という職務があります。

企業は、創業期→成長期→安定期→変革期という4つの成長ステージがあると言われています。会社が立ち上がったばかりで人数も少ない「創業期」や売上が拡大する「成長期」の前期に、まず必要となる人事業務は、図の一番下にある「給与・厚生」のオペレーションです。

「とりあえず給料はしっかり払おうぜ」「人を雇ったら社会保険にも入らなくちゃね」「入退社の手続きもちゃんとやらないとダメだよね」となって、まずは給料の計算や支給、社会保険・入退社の手続きなどから始めることになります。

これらは最低限必要なことですから、どの会社でも必ずやっているはずです。社長が自ら行ったり、事務の人に手伝ってもらったり、社労士さんにお願いすることが多いでしょう。

次に「人を採用しなきゃ」となって「人事・採用」のオペレーション=人材募集や採用業務が必要となります。これも社長が自らやるか、事務や総務の人が担当することが多いでしょう。

やがて会社が成長して、お客さんが増える、商品がどんどん売れる、という状態になってくると、ビジネスを回す人が非常に大事になってきます。営業の会社であれば営業担当者、技術の会社であればエンジニアですね。「お金を稼いでくれる部門に人を入れていこうぜ」という話になってきて、使える人材や優秀な人材は前線に置きます。

この段階で人事が重視されることはありません。当然そこに人を割かれることもありません。

ご感想はこちら

プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

著書

人事はあなたのココを見ている!

人事はあなたのココを見ている!

西尾 太 /
空前のリストラ時代、ビジネスマン人生の明暗を分けるのは、人事の評価である。...
人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準

人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準

西尾 太 /
「頑張っている」はもはや無意味。「成果」こそが揺るぎない価値になるこの時代...
出版をご希望の方へ

公式連載