小川ヤクルト 躍進へのマネジメント

チームの世代交代と新陳代謝、
指揮官が村上選手に願うこと

2017シーズンまさかの「96敗」から、昨シーズンセリーグ2位という快進撃を見せたヤクルトスワローズ。ドン底のチームを見事立て直した小川監督は今年、「KEEP ON RISING~躍進~」をスローガンに掲げ、さらなる飛躍を目指す。本連載では2018年シーズンに続き、インタビュアーにスポーツライター長谷川晶一氏を迎え、「躍進」を成せる強いチームをつくるにはどのような采配と決断が必要なのか――小川監督へのタイムリーなインタビューを通じて組織づくりの裏側に迫っていく。

(インタビュアー:長谷川晶一)

決して、三振を恐れることなく、
村上には堂々としていてほしい

――「19歳の四番打者」村上宗隆選手を筆頭に、廣岡大志選手、奥村展征選手、山崎晃大朗選手、ルーキーの中山翔太選手など、今季は若手の積極的な起用が多くなっています。これは選手間の「世代交代」、あるいはチームの「新陳代謝」を意識されているのですか?

小川 チーム状況がなかなか上向かない中、「世代交代」という意識はもちろんあります。骨折から復帰した坂口(智隆)が、なかなか本調子に戻らないとか、バレンティンも年齢からくる衰えが見られ、あるいは雄平にしても、昨年ほどの成績を残せていない状況なので、世代交代というものを意識しなければならない時期に来ているとは思います。ただ、現実的には「若手を使わざるを得ない」という側面もあるのですが……。

――ファームでは「勝敗と育成は別のもの」と割り切った考えも、しばしば見受けられます。しかし、一軍においてはやはり「勝敗優先」の姿勢が求められると思います。実際のところ、小川監督は「勝敗と育成の両立」は可能だとお考えですか?

小川 両立は無理だと思います。一軍である以上、勝ち負けにこだわり、勝利を優先にした考えの下で選択をしていかなければならないと思っています。「育成」を主眼においた起用をすれば、当然、ベテラン勢の不満はたまるし、チーム内に不協和音を生み出すことになりかねませんから。ただ、繰り返しになりますが、現実的な問題として「若手を使わざるを得ない」というのが現状です。

――8月に入って、「四番・バレンティン」が復活しましたが、それまではずっと村上選手を四番にしていました。村上選手を四番に置いた意図は何でしょうか?

小川 打率は低いし、もろいところもあるのは事実ですが、20本以上のホームランを打ち、打点王争いをしている以上、四番を任せられる十分な成績だと思っています。村上を四番に据えていたのは、成績上の理由ももちろんですが、彼の成長を意識した上での起用でもあります。ただ、「オレは四番だ」という自覚を持つことは大切ですが、それで慢心したりせず、常に謙虚であってほしいという思いは常に持っています。

――80年代終盤、関根潤三監督時代には、どんなに三振が多くても、当時売り出し中だった池山隆寛選手を徹底的に起用し続けました。その結果、数年後には一流選手へと飛躍しました。当時の関根監督の起用法について、小川監督はどのようにお考えですか?

小川 関根監督時代、僕も現役選手として池山の飛躍を間近で見てきました。あの当時、池山にしても、広澤(克実)にしても、関根さんは一貫して「三振も凡打も一緒だ」と言い続け、彼らがいくら三振しようととがめることはありませんでした。それが、池山、廣澤の成長につながったのは間違いないと思います。そういう意味では、村上に対しても三振したからといって、自分のスタイルを見失わないでほしいと思っています。もちろん、無死満塁、一死満塁の場面では三振よりも、外野フライの方がいいのは当然です。でも、村上には変に当てにいったり、三振を怖がったりしないでほしいし、たとえ三振でも、堂々としていてほしいと思っています。

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プロフィール

小川淳司
小川淳司

千葉県習志野市出身。習志野高校卒業後、中央大学に入学。1981年ドラフト4位でヤクルトに入団。1992年現役を引退すると、球団スカウトやコーチなどを経て、2010年シーズン途中に監督に就任。2014年シーズンまでチームを率いる。退任後は、2017年シーズンまでシニアディレクターを務め、2018年から再び監督となる。

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