こんな仕事絶対イヤだ!

買えばおとなしく退散する――銭さし売り

2017.12.31 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第89回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

無理に押し売り、買えば退散

江戸時代では一文銭や四文銭など、大量の銭貨が流通していた。これを纏(まと)めるために用いたのが“銭さし”と呼ばれる紐で、藁や麻をよって作られていた。およそ100本の銭さしを1束として、これを『銭さし売り』たちが売り歩いた。しかし、その売り方が穏やかではなかった。銭さし売りは、もともと火消し屋敷の使用人や臥煙(がえん)と呼ばれる火消し人足が内職として行なっていたものである。気っぷの良さ、ややもすると荒々しさが目立つ彼らである。押し売りまがい、というかモロに押し売りが行なわれていたようなのだ。

ターゲットとなったのは、新規開店のお店だった。何かと入り用でお金が動くことも多いだろうから、銭さし買ってネ☆と迫るわけだ。100本単位の銭さしなどそうそう必要になるものでもない。いらないと断ると態度を一変、着物の裾をまくって尻を見せ、威嚇するのであった。なぜプリケツを見せることが威嚇になるのかは歴史が我々に投げかけた謎だが、見せられたほうもとにかく無駄に恐かったであろうことは確かだ。それでも勇気を出して断ると、今度は店先で大の字になって寝転び、「人の売り物にけちを付けやがったな」と本格的に営業妨害をするのだった。ほとんどやくざ様に近い行ないであるが、これが銭さし売りの紛れもない実態であった。

若さが間違った方向に出ていた彼らだが、幕府から押し売りを禁じられるようになってようやく態度が改まったという。しかし、その時期は幕末だったため、手遅れもいいところであった。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

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金持ちの道楽として庭で飼われた「隠遁者」、貴族の吐いたゲロを素早く回収する...
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