「家族」というチームのつくり方

共感してるようでバカにしてる? 共感夫に妻がキレる正しすぎるワケ(前編)

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ちょっとしたアドバイスのつもりが……


また別のあるとき、次のようなことがありました。ちなみにこれが、今回のトラブルのきっかけになります。

息子は朝が弱く、何度も起こさないと起きてきません。起きても眠そうで、なかなかご飯が進みません。ぐったりしながらくちゃくちゃと口を動かし、ちょっと気を抜くとぼーっと休んでいます。歯磨きも着替えも非常にゆっくりです。
そんな息子に、妻は毎日あの手この手でアプローチしています。
「早くしようね?」と声をかけたり。
「時計見て。今は何をする時間?」と質問してみたり。
「ほら、間に合わないよ。遅刻だよ!」とおどしてみたり。
「遅れてもいいのね」と突き放してみたり。
息子は妻から何言われるたびに「わかったわかった」「はーい」と返事だけしながら、結局はちんたらちんたら準備をして、それでも奇跡的に(?)毎日遅刻をせずに登校しています。

学校に旅立つのを見送ったあと、妻はどっと疲れた様子を見せます。怒る、叱る、というのは、ものすごくエネルギーの要ることです。
ビジネスの現場でも、部下を叱らないといけないとなれば、ゆううつにもなりますし、叱ったあとには「叱りすぎたかな」と反省したりして、怒ること、叱ること自体に強いストレスを感じるものです。
ですから、私は妻のために、もう少し叱らないでも彼が自分で行動を変えるようなアプローチを提案するように、こう切りだしたのです。

「毎日叱ってて、いつも疲れてそうだよね。大変でしょ? なんかいい方法があるんじゃないかな」

妻への叱り方へのリスペクトを忘れずに、言い方を自分なりには気をつけて伝えたつもりでした。しかし妻は、次のように切り返してきました。

「じゃあさ、パパがやってみたら? 毎日」

少しとげのある言い方でしたので、誤解させてしまったかなと思い、

「いやいや、叱っていること自体とかしかり方がよくないと言っているわけじゃないよ。毎日叱ってたら、〇〇(妻)の身体とメンタルが持たないんじゃないか、と思って言っただけだよ」

フォローしたつもりが、まったく響いておらず、納得のいかない表情をしています。

「〇〇(妻)が叱ってきたことは、すごく効果も出てると思うし、〇〇(息子)にとってもすごくいい影響があると思ってるよ。だけど、〇〇(妻)のストレスも心配だから、もっといい方法がないかな、っていうだけの話だよ」

私はそうやりとりをしながら、ちょっとしたボタンの掛け違いなのかな、というくらいの受け止め方をしていたのですが。

無自覚な「エセ共感」の恐ろしさ

時間を、冒頭のランチのときに戻します。

妻は真剣な表情になると、改まったように「この際だから話したいことあるよ。ずっと話したいと思っていた」と切りだしてきました。そして私の目をまっすぐ見て、「あなたはいつも私のことを否定してくる」と言ってきたのです。
それであわてた私は、次のように返答します。

「え? オレが? いつ否定した?」
「いつも、いつも、いつもだよ」
「いやいや、してないでしょ。いつもすごいなと思ているし、尊敬してるし、育て方について、いい影響が出てると感じてるよ。〇〇(妻)の育て方に疑問を持ったことなんてないよ」

ここまでのやりとりでも、私はまったくピンときていませんでした。妻のことを否定する気持ちなど1ミリもないと思っていたのです。

「子育てのことだけじゃない。ごはんをどこにするとか、旅行どこに行く、とか、そういうことも全部。習い事は何にするかとか、何を増やして何を減らすかとか、そういうことも含めた全部」

「まさかそんなはずはない」というのが、私の率直な印象でした。なぜなら私は、組織マネジメントの専門家です。相手の話をきちんと聴くこと、共感を示すことは、組織マネジメントの基礎であり、それを徹底するように人にも教えていました。
否定ではなく共感を示すというのも基礎で、呼吸をするよりも簡単にできると自負していましたが、まさか自分の妻に対してそれができておらず、否定しかしていないという印象を持たれてしまうなんて。
ショックを受けつつも妻とのコミュニケーションを思い返し、自分がどう返答し、対応していたのかを振り返ってみると、驚愕の事実がわかったのです。

私は、本当に、否定しかしていなかったかもしれない……!

それは、本当に衝撃的な気づきでした。
ビジネスコミュニケーションをトレーニングされてきた私は、妻の話を聞くときに、いったん理解と共感を示し、あたかも合意したように見せて、「いいね、こうするともっといいんじゃない?」と次のステップとして主張を潜りこませたり、「それは面白いね。こういうふうにも考えられるんじゃない」といった形で、別の案を提示するということをよくやっていました。
結果的に、妻の意見をそのままにすることはいっさいありませんでした。毎回、「もっといい別の意見」や「さらによくなる別の主張」をまぎれこませるというコミュニケーションをとっていたのです。
それを毎回された妻が、「いつもいつも否定してくる」と感じていたとしても、なんら不思議ではありません。

これを名づけるなら、大変不名誉なことですが、「エセ共感」ということになるでしょう。
表面上は共感しているように見せて、その実まったく共感しておらず、自分にとって有利なほうへと誘導しているのですから、これでは結局、自分の都合のいいように相手を操ろうとしているに過ぎません。
こんなコミュニケーションのとり方が、毎日毎日顔を突き合わせる妻に通用するはずがありません。

非常にやっかいなことに、私は自分のコミュニケーションがエセ共感だとはまったく気づいていませんでした。それどころか、自分は奥さんの主張や行動に心から共感して、合意していると思いこんでいたのです。
妻からしたら、非常に扱いにくい、とんでもない勘違い夫です。
このとき初めて自分の過ちに気づいた私は、「その通りだ。ごめん。本当にごめん!」と謝ることしかできませんでした。そして、このエセ共感夫に合わせてコミュニケーションをとってくれていた妻に、改めて感謝と申し訳なさがこみあげてきたのでした。(続く)

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プロフィール

高野俊一
高野俊一

組織開発コンサルタント。
1978年生まれ。日本最大規模のコンサルティング会社にて組織開発に13年関わり、300名を超えるコンサルタントの中で最優秀者に贈られる「コンサルタント・オブ・ザ・イヤー」を獲得。これまでに年200回、トータル2000社を超える企業の組織開発研修の企画・講師を経験。
指導してきたビジネスリーダーは累計2万人を超える。
2012年、組織開発専門のコンサルティング会社「株式会社チームD」を設立、現代表。
2020年よりYouTubeチャンネル『タカ社長のチームD大学』を開設。2023年6月現在、チャンネル登録者約3万5000人、総再生回数380万回。
2021年より、アルファポリスサイト上にてビジネス連載「上司1年目は“仕組み”を使え!」をスタート。改題・改稿を経て、このたび出版化。
著書に『その仕事、部下に任せなさい。』(アルファポリス)がある。

著書

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高野俊一 /
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その仕事、部下に任せなさい。

高野俊一 /
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