2020ヤクルト 高津流スワローズ改革!

連敗期、停滞期に監督として考えること、すべきこと

大ベテラン・石川雅規の今季初勝利に思うこと

――若手選手の抜擢については次回以降にジックリと伺いますが、たとえば、9月30日の横浜DeNAベイスターズ戦では、これまでなかなか勝てなかった石川雅規投手がようやく今季初勝利を挙げた。あるいは、翌10月1日には、今季途中加入の歳内宏明投手がNPB復帰後初の勝利投手となった。こうしたことも、監督の言う「新しい人が加わること」に含まれるわけですね。

高津 そうですね。「石川が勝った」「歳内が勝った」ということで、みんなの表情が一気に明るくなったのは間違いないですね。もちろん、石川は大ベテランで「新しい人」ではないけど、口には出さなくても、みんなが「石川さんに勝たせたい」と思っていたし、歳内のような苦労人は応援したくなりますからね。彼らの勝利はチームにとって明るい話題だし、ロッカーでもみんなウキウキしていましたからね。

――監督自身も、現役時代に石川投手と一緒にプレーしています。彼の今季初勝利にいては、どのような感想をお持ちですか?

高津 うーん、何て言うのかな……。もちろん、嬉しいんですよ。嬉しいんだけど、周りの人がすごく喜んでいる一方で、僕自身はかなり冷静に受け止めていましたね。

――どうしてですか?

高津 「いずれ勝つだろう」って思っていたから(笑)。もちろん「勝たせたい」という思いはあったけど、だからと言って「ようやく勝った」と過剰な思いもなかったですね。確かにちょっと時間はかかってしまったけど、彼への信頼は何の揺らぎもなかったです。相手投手や、味方打線との兼ね合いはあるけど、「必ず勝てる日が来る」と僕は勝手に思っていましたから。

――無事に勝ち投手となって、石川投手の様子はいかがでしたか?

高津 本人は責任感の強い男ですから、辛い時期も過ごしたと思います。だから、ホッとしたんじゃないですかね。でも、本人以上に僕はゆったりと見守っていましたけど(笑)。

身体を張ったプレーがチームのムードを変えるきっかけに

――9月16日の横浜DeNAベイスターズ戦では、レフトを守る上田剛史選手によるフェンス激突の大ファインプレーで試合終了しました。上田選手は翌日から、負傷による登録抹消となってしまいましたが、ああいうプレーも雰囲気を変える起爆剤となるのでは?

高津 野球というのは27個のアウトを取るスポーツですよね。上田のファインプレーはたった一つのアウトでしかない。けれども、「それが27個目のアウトだった」ということがすごく意味のあることだったと思います。試合終了直後、倒れている剛史の下に、僕も足を運びましたけど、マウンド上の石山(泰稚)も駆けつけましたよね。それがすごく大きい意味があることだと思います。

――そこには、どんな意味があるのでしょう?

高津 僕も抑えピッチャーだったので、石山の心境はすごくよくわかります。無事に試合が終わってホッとした気持ち。身体を張ってアウトにしてくれた感謝の気持ち。ケガはないかという心配の気持ち……。そうしたものが入り混じった心境だったはずです。一つのアウトをめぐって、みんなの思いが一つになれる。剛史の故障は、チームにとってはすごく痛いけれど、あれはとても大きなプレーでした。

――実際にこの試合を含めて、チームは3連勝しましたからね。やっぱり、ガッツあふれるプレーというのもチームのムードを変えるには必要なんですね。

高津 僕自身もすごく嬉しかったし、興奮しました。宮出(隆自)ヘッドにおんぶされながらベンチに引き上げる剛史の頭をなでながら、「めちゃめちゃ大きいアウトだぞ」って言いました。何しろ、オースティンも褒めていましたから(笑)。

――DeNAのオースティン選手も褒めていたんですか?

高津 試合終了で三塁側ベンチに引き上げていくオースティンと、おんぶされて一塁側ベンチに戻るときにすれ違ったんです。そのとき彼が剛史に向かって、「グレイトジョブ!」って言っていましたよ。「さすがアメリカ人やな」って(笑)。とにかく、ああいうプレーによって、個人の気分、チームのムードは確実に変わりますね。

――さて、10月12日から6連戦が4週間も続きます。シーズン終盤にまた過密日程がやってきましたが、現在その渦中にある心境を教えてください。

高津 試合が続くと疲れが溜まったり、故障がちになったりするので、まずは体調管理ですね。レギュラー陣は体調管理。控え選手には心の管理。これはシーズンを通じて変わりません。あとは、積極的に若手を起用する一方で、中堅、ベテラン選手へのケア。その辺りを意識して戦いたいと思います。

――ぜひ、次回は「若手選手の抜擢の際に意識すること」を伺いたいと思います。

高津 わかりました。次回もよろしくお願いします。

 

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プロフィール

髙津臣吾
髙津臣吾

1968年広島県生まれ。東京ヤクルトスワローズ監督。広島工業高校卒業後、亜細亜大学に進学。90年ドラフト3位でスワローズに入団。93年ストッパーに転向し、20セーブを挙げチームの日本一に貢献。その後、4度の最優秀救援投手に輝く。2004年シカゴ・ホワイトソックスへ移籍、クローザーを務める。開幕から24試合連続無失点を続け、「ミスターゼロ」のニックネームでファンを熱狂させた。日本プロ野球、メジャーリーグ、韓国プロ野球、台湾プロ野球を経験した初の日本人選手。14年スワローズ一軍投手コーチに就任。15年セ・リーグ優勝。17年に2軍監督に就任、2020年より現職。

著書

明るく楽しく、強いチームをつくるために僕が考えてきたこと

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2021年、20年ぶりの日本一へとチームを導いた東京ヤクルトスワローズ髙津臣吾監...
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