痛みに悩んでいるとき、テレビ通販などで宣伝しているサプリメントを見ていると試したくなるものです。いろいろな薬によって痛みが取れない場合、医師はお手上げになってしまいますが――そんなときに希望となって心を救ってくれるのが、サプリメントなのかもしれません。
サプリメントは、医薬品と違い、その効果を偽薬と比較して効果を証明する必要はありません。「特保」と呼ばれるものでも、医薬品の厳しい臨床試験とは比べものにならないほど、簡易な検査をやっただけに過ぎません。それにもかかわらず、そういったサプリメントで、医師でも薬でも取り除くことができなかった痛みが取れたりすることがあります。
これが起きるのは、痛みというものが、痛んでいるその部位だけてなく、「心」、つまり「脳の中」で起きている現象だからです。
何かに夢中になっているとき、普段かかえていた痛みを不思議と忘れることができた。そんな経験はありませんか? 逆に普段は痛むことがないのに、嫌なことがあったりすると急に痛みが襲ってきたりしたという経験も、多くの人がしていることでしょう。このことは、痛みに心の状態が大きく関係している証拠です。
だからこそ、サプリメントに救いがあると言えます。痛みの緩和に効くと信じることで、痛みが実際に緩和されることもあるのです。
心の状態によって痛みは現れたり消えたりするという話をしましたが、もう少し踏み込んでみます。心の状態が、痛みのそもそもの原因になるケースもあります。
ストレスを感じると脳が機能の不具合を起こし、体にいろいろな変化をもたらします。よくある身体症状としては、不眠、頭痛、動悸などですが、中には肩こりや腰痛のような、整形外科領域の症状として現れることもあるのです。
肩こりや腰痛は原因を特定するのが難しいですが、どういう原因があるにせよ、その根本には肩や腰への血流がうまく流れなくなっている、と考えられます。
また、ストレスを抱えていると、体のバランスがうまくとれなくなり、反射的な動きが悪くなって、物を持ち上げてようとしたとき、ぎっくり腰のようになって腰痛を起こすこともあります。
いずれにしても、痛みを抱えているときはその痛んでいる部位だけを考えてしまいますが、自分の心が平静に保たれているか、ストレスを感じていないかなどが、痛みの原因に関わっていることも少なくないのです。
心の状態つながりですが、うつ病の薬の中で腰痛に効果のあるものがあります。これは前述したように、腰痛の原因がストレスにあった場合です。
慢性的な腰痛の患者さんに、うつ病の薬を処方すると、実際に腰痛が軽減されることがあるのです。つまり、痛いから痛み止めだけと考えずに、ストレスとの関係も考慮して処方をしていく必要があります。それには、患者さんの生活の状況まで考えてくれる主治医が必要だといえます。
私の外来に来ている患者さんに、94歳の男性がいます。彼は「70歳のころは腰が痛かったけど、今はどこも痛くないんだ」と言います。彼がそう言う理由は、いくつか想像できます。痛み自体が消えた、痛みに慣れてしまった、痛みに鈍感になったなどです。
骨の変形などが原因の痛みは、そうそう簡単に消えるものではありません。なので実際には痛みは消えてはおらず、慣れた、鈍感になっただけなのでしょう。
痛みに鈍感になったという考え方は、痛みと共存していくという意味も含まれます。どうして痛いのだろうと原因の追及をやめて、彼のように、もう結構な歳なんだから多少痛いのは当たり前と考えるべきなのです。無駄な原因探しをやめて、自分の生活でもっと楽しいこと、面白いことを探し求められるかです。
いずれにしても、ある年齢になると痛みが消えることがあるというのは非常に大きな希望になります。今がつらくても、それが消える時が来るかも知れないと思えれば、今をなんとか過ごしていくことができるはずです。