「令和の米騒動」の中、2025年の新米が出回りはじめているものの、コメの価格高騰はおさまらない。JA阿蘇(熊本県)の原山寅雄組合長が9月9日の新米出荷記念式典で、25年産コシヒカリの生産者概算金を1俵(60キロ)当たり3000円引き上げて3万3240円すると発表した。
JA阿蘇はいち早く概算金3万円を提示し、小泉進次郎農林水産相が食糧部会で取り上げ、全国的に知られるようになっていた。その農協が概算金を大幅に上げ、値上げ競争の先陣を切る形となったのである。
全国の主要なコメ産地では農協系統が昨年産よりも大幅に高い概算金を生産者に提示して、大方が1俵3万円を超えている。農協系統の大幅な概算金引き上げが新米価格の高騰の一因になっており、スーパー等での店頭価格は5キロ4000円を超える価格で販売が始まった。
コメの価格は高止まりの状態で、消費者が負担を強いられることがメディアなどでも伝えられている。しかし、さらに深刻な影響を受けているのはコメを主原料としているコメ加工食品業界である。中でも国産米使用を謳っている焼酎業界は厳しい現実に直面している。
熊本県人吉市・球磨郡はコメ焼酎「球磨焼酎」の里である。500年前に製造が始まった球磨焼酎は1995年に国税庁による酒類の地理的表示(GI表示〈Geographical Indication〉)に登録された。
その要件は、原料について?原材料の穀類として国内産米のみを用いる?国内産米から製造された麹のみを用いる?球磨郡または人吉市で採水した水のみを用いる――という3つである。
国産米を原料としなければ球磨焼酎と名乗れず、GI表示も謳えない。このことが今、球磨焼酎業界で大きな問題になっている。それは国産米の価格が従来の2倍以上に高騰、入手難になっているのだ。
球磨焼酎の製造会社は全部で27社ある。最も製造量が多いブランド米焼酎が高橋酒造の「白岳」だ。
同社は年間4万石(720万リットル)を製造し、コメ約4000トン(t)を使用する。
球磨焼酎は沖縄の泡盛から伝わったものとされており、タイ産米を使っていた泡盛を踏襲して外国産米を使っていた。それが外国産米の不正転売事件、いわゆる事故米事件騒動があり、一転して国産米を使用するようになっている。国産米は今や、G1表示のために不可欠なものとなっている。
ところが令和のコメ騒動で原料米の入手価格が急騰、「これまでの価格に比べ2倍以上になった」と製造部相談役の藤本俊司氏は語る。
球磨焼酎業界が使用する原料米は主に加工用米と特定米穀(低品位米)の2種類がある。加工用米については主食用米の価格が高騰したことによって加工用米を生産する生産者が減ってしまい、必要量が確保できなくなった。確保しようとすると25年産米は1俵2万円を超える価格になってしまう。
特定米穀も主食用米の価格高騰に引きずられる形で従来入手できた価格に比べ2倍以上になった。このため球磨焼酎組合は、地元の自治体に対策を要請、農水省にも緊急措置として備蓄米の売却を要請してきた。
小泉農相になって備蓄米(20年産米)7万5000tをコメ加工食品業者に売却することが決まり、米焼酎業界も対象になった。ところがこの備蓄米を買い受けるには様々な条件が課せられた。
例えば、備蓄米の買い受け資格者は、過去3年間に加工用米の購入実績がある事業者、もしくは25年産加工用米の購入予定がある事業者になっている。球磨焼酎組合の傘下組合員27社のうち加工用米を購入した実績のある事業者は12事業者で、他は特定米穀を購入している。