ドイツのワーデフール外務大臣(キリスト教民主同盟:CDU)は、12月8~9日に中国を訪問して貿易問題などをめぐり王毅・共産党政治局員兼外相らと会談した。この背景には、欧州連合(EU)と中国の関係が冷え込む中、ドイツが希土類(レアアース)輸入など経済的な理由で、独自に対話のチャンネルを維持するという狙いがある。
ワーデフール外相の訪中のポイントの一つは貿易問題だった。2025年に中国政府が実施した一部の希土や、ディスクリート半導体の輸出規制がドイツ企業に悪影響を与えている。このためワーデフール外相は、輸出規制のルールの透明化や、公正な貿易関係の重要性を訴えた。
ただし中国が世界の希土の精錬能力をほぼ独占している中、ドイツの立場は弱い。実際今回の訪中で、輸出規制などをめぐる具体的な合意はできなかった。
だがドイツにとっては、具体的な合意が得られなくても、訪中の実現自体が「成果」だった。その理由は、25年夏のワーデフール外相の発言により、独中関係がぎくしゃくしているからだ。
ワーデフール外相は、25年8月18日に日本を訪れ、岩屋毅外務大臣(当時)と会談した。ワーデフール氏はドイツ国内でも「思ったことをためらわずに言う」性格で知られている。
問題となったのは、会談後の中国批判だ。彼は「中国は東アジアの現在の状態を変更するという意図を繰り返し表明している。国境を自国に都合の良いように変えようとしている。世界の貿易にとって重要な地域(筆者注:台湾海峡を指すものと思われる)でのエスカレーションは、世界の安全保障と経済活動に深刻な影響を与える」と批判した。
ワーデフール外相は、日本への出発前にも、「中国は台湾海峡や南シナ海周辺をめぐりアグレッシブな態度を強めている。これは欧州にも悪影響を与える。グローバルな関係が危険にさらされている」と指摘していた。
こうした発言について、中国外務省の毛寧報道官は8月18日、「国家間の対立と緊張を高めようとするものだ」と批判。「南シナ海などの状況は平穏である。台湾問題は中国の国内問題である。『一つの中国』という考え方は、国際社会に受け入れられた基本原則だ」と反論した。
ワーデフール外相が日本で行った発言は、中国政府の逆鱗に触れた。ワーデフール外相は25年10月に訪中する予定だったが、出発直前にキャンセルされた。ドイツ外務省はその理由を公表しなかったが、ドイツのメディアは「中国政府がワーデフール外相に対して、台湾問題についての発言を撤回するよう求めて来たため、ワーデフール外相は訪中を取りやめた」と報じている。
ワーデフール外相は、「中国はウクライナ戦争をめぐって間接的にロシアを支援している」と不快感も表明していたが、中国政府はこの見解についても公に修正するよう求めた。ドイツ政府にとって、外務大臣の公式見解を撤回・修正することは、発言が間違っていたと認めることになるため、到底できない。
さらに中国は、ワーデフール外相の出発直前に、いくつかのアポイントを取り消した。このため、出発2日前にキャンセルしたのだ。
したがって、ワーデフール外相が約2カ月間の冷却期間を置いて訪中し、王毅氏との会談を実現させたこと自体、ドイツ側にとっては「成果」なのである。台湾やウクライナ戦争をめぐる見解の相違があっても、貿易問題の懸案が山積する中、ドイツ・中国ともに対話のチャンネルを開いておこうと判断したのである。今回の会談は、両国の関係正常化へ向けた第一歩だった。