ドイツ外相が中国を訪問した真の狙い、中国政府を激怒させない発言で得られた“成果”、EUとの「氷河期」にある中国との関係性とは?

2025.12.26 Wedge ONLINE

マクロン大統領とも個別に会談

 中国がワーデフール外相と会うことに同意したのは、EUの加盟国と個別に話し合うチャンネルを維持するためだ。

 そのことは中国が25年12月3日から3日間にわたり、フランスのマクロン大統領の訪問を受け入れたことにも表れている。習近平国家主席は、フォン・デア・ライエン委員長に比べるとはるかに手厚くマクロン大統領を接遇した。

 マクロン氏は硬軟交えたメッセージを中国に送った。「貿易問題において、欧州と中国は双方を必要としている。しかし中国が貿易不均衡を是正しない場合には、EUは報復措置も辞さない」と伝えたのだ。

 中国は、ドイツやフランスからの訪問者と個別に会い、対応の仕方に差をつけることによって、欧州の分断を目指していると考えることもできる。中国政府は、ドイツやフランスがEUに働きかけて、BEVに対する姿勢を軟化させることも希望しているに違いない。

ドイツと中国の?関係性?

 誤解を避けるために付け加えたいのだが、中国の台湾政策を批判したのはワーデフール氏が最初ではない。この見解は、過去の政権も表明してきたものだ。たとえばショルツ前政権が23年7月に公表した「中国戦略」も、台湾問題をめぐって中国に批判的な態度を取っている。

 05年から21年まで首相を務めたメルケル氏は、経済問題を重視したために、中国に対して人権問題を強く批判しなかった。これに対し、ショルツ政権で外相を務めたアンナレーナ・ベアボック氏(緑の党)は、台湾問題や人権問題で中国をあからさまに批判した。

 中国戦略の20ページには「中国共産党の影響力拡大とともに、市民権は後退し、言論や報道の自由は制限されている。少数民族や宗教共同体の文化的アイデンティティーも圧迫されている」と書かれている。「中国は新疆ウイグル自治区とチベットで人権を侵害している他、香港では国際的合意に反して自治権や市民の自由を抑圧している。人権保護団体や市民権を守ろうとする弁護士の活動も困難になっている」と批判した。

 また同文書は「台湾海峡の安全保障はアジアだけの問題ではなく、ドイツや欧州の安全保障にも影響を与える。現状を変更する場合には、全ての関係者の合意に基づき、平和的手段によってのみ行われるべき」と釘を刺した。ドイツ政府はこの中で「EUの『一つの中国政策』の枠の中で、台湾が実務面で国際機関の活動に参加することを支援する」とも述べている。

 また、同文書の55ページで「ロシアのウクライナ侵攻は、国連憲章に違反する行為だ。しかし中国は、ウクライナの国家としての主権性を十分に尊重していない。さらに中国は、ロシアの北大西洋条約機構(NATO)批判に賛成している。こうした態度は、欧州の安全保障にも直接影響を与える」と述べ、中国のロシア寄りの姿勢を批判した。

批判はするも、対話は切らさない

 ワーデフール外相も、台湾情勢やウクライナ問題に言及するものの、中国政府を激怒させないようオブラートに包んでいる。希土や貿易不均衡をめぐる交渉を続けるために、対話のチャンネルが切断されることを避けようとしている。

 中国との交渉では、欧州の手持ちのカードは少ない。パリのEU安全保障研究所(EUISS)で中国問題を担当するティム・リューリヒ研究員は、「中国が競争相手として最も重視しているのは米国とグローバル・サウスだ。中国は欧州を重視していない。欧州は希土などに関して、中国への依存度を高める一方であり、中国との交渉では強い立場にない」と指摘する。

 ドイツ政府はこれからも、対話のチャンネルの維持と、台湾・ウクライナ問題での欧州の立場の主張の間で、デリケートで困難な綱渡りを強いられるだろう。