ワーデフール外相は、重要資源をめぐり中国に大きく依存しているにもかかわらず、へりくだるような態度は見せなかった。中国滞在中にも、台湾問題を武力によって解決しないように要求し、ウクライナ戦争をめぐって影響力を行使して、ロシアの態度を緩和させるよう求めた。彼は「中国とドイツは互いを必要としており、対話を継続するべきだ」という点を強調した。
なお日本のメディアは、「王毅氏は12月8日、ワーデフール外相と北京で会談した際に『ドイツと異なり、日本は戦後80年たった今も侵略の歴史を徹底して反省していない』と批判した」と報じているが、この点についてワーデフール外相はコメントしていない。日本と中国の、台湾有事をめぐる対立にタッチしたくないと判断したためだろう。
重要な友好国日本に対して、「あなたの国は十分に過去について反省していない」と教えを垂れるような態度を取りたくないとも考えたに違いない。ドイツのメディアも、この中国側の日本批判についてはほとんど触れていない。
中国が今回、王毅・ワーデフール会談を成立させた背景には、中国とEUの関係が氷河期にあるため、中国が個別の国と対話を続けようとする意図が感じられる。
EUは中国の対欧貿易黒字が年々増えていることを批判し、欧州企業に対して中国市場へのアクセスを容易にするよう求めている。
さらにEUは24年10月、「中国から欧州に輸出されるバッテリー電気自動車(BEV)は政府の補助金を受けて不当に価格が引き下げられている」と主張して、中国からのBEVに最高35.3%の追加補助金を適用した。EUは太陽光発電モジュールのように、中国からの割安のBEVが欧州市場を席巻することを恐れている。中国側は「EUの追加関税は自由貿易を妨げる措置だ」として撤回や関税率の削減を求めている。
また欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、25年6月16日、カナダで開かれた主要7カ国(G7)の首脳会議で「中国は希土を使った永久磁石について、事実上独占状態にある。中国はこの地位を交渉材料として使うだけではなく、競合国の立場を侵食するための武器としても使っている」と述べ、同国の姿勢を痛烈に批判した。
EUのこうした行動と発言は、中国を怒らせた。両者の関係の冷え込みを如実に示したのが、25年7月24日に北京で開かれたEU・中国首脳会談だった。フォン・デア・ライエン委員長は、欧州理事会のアントニオ・コスタ議長とともに北京を訪れ、人民大会堂で習近平国家主席と会談した。
25年は、EUと中国が外交関係を樹立してから50年目にあたる、重要な節目の年だった。だが両者の間には、半世紀続いた外交関係を祝う雰囲気はなかった。
そのことは、首脳会談のスケジュールにも表われている。これまでEU・中国間の首脳会談は、ブリュッセルと北京で交互に開かれた。前回は23年にフォン・デア・ライエン委員長が北京を訪れたので、25年には習近平国家主席がブリュッセルを訪れるのが通常の順番だが、習近平氏は欧州へ出張することを拒否した。
また、フォン・デア・ライエン委員長は当初7月24日から2日間にわたって中国政府関係者と会談を持つことを望んだが、中国側は2日目の日程をキャンセルした。中国政府は、北京空港に到着した際に歓迎式典を行わなかった。
さらに空港からの送迎でも2人をリムジン(大型乗用車)ではなく大型バスに乗せてホテルや人民大会堂に移動させるなど、冷たく扱った。EUの最高責任者にふさわしい接遇ではない。
これは中国政府のEUに対する強い不快感の表れだ。フォン・デア・ライエン委員長は習近平氏と率直に議論することを望んでいたが、中国側は拒否した。