ベネズエラへの地上作戦実施――新たな戦争をするトランプ、なぜトランプは「アメリカファースト」を“捨てた”のか

2026.01.10 Wedge ONLINE

 2026年に入ると、早々にドナルド・トランプ米大統領(以下、初出以外敬称および官職名略)は、ベネズエラに対して地上作戦を実施して、ニコラス・マドゥーロ大統領夫妻を拘束し、強制的に彼らを米国に移送して、ニューヨークで裁判を行うこととした。今回の地上作戦は、MAGA(米国を再び偉大にする運動に賛同する人々)が同調したトランプの政策の柱――「アメリカファースト」に相反する行為であることも確かだ。なぜ、トランプはアメリカファーストを“捨てた”のか。その背景には何が隠されているのか――。

傀儡政権

 トランプにはベネズエラに地上作戦を実施しても、共和党支持者から支持を得られるという読みがあったのだろう。加えて、実施後の「統治」の仕方に関しても過去の政権の経験から学んでいると言えよう。

 世論調査で定評がある米クイニピアック大学(東部コネチカット州)の全国世論調査(2025年12月11~15日実施)によれば、米軍によるベネスエラ国内における軍事力行使に関して、全体では25%が「賛成」、63%が「反対」、12%が「分からない」と回答したが、共和党支持者に限ってみれば、52%が「賛成」、33%が「反対」、15%が「分からない」と答えた。

 共和党支持者は過半数が軍事力行使を支持した。地上戦が成功を収め、(米国への麻薬密輸の主犯格である)マドゥーロ大統領を拘束し、ベネズエラの石油権益獲得の再獲得を確保できれば、「ひび」が入ったMAGAを元のように結束させることができると考えた節がある。

 トランプはシナリオ通り、ベネズエラ国内における地上作成が成功を収めると、南部フロリダ州の邸宅「マーラ・ア・ラーゴ」で記者会見を開き、「統治する(govern)」や「占領する(occupy)」という言葉を用いずに、今後、米国がベネズエラを「運営する(run)」と語った。“運営”には、トランプの意のままになる傀儡政権を作り、ベネズエラをコントロールするという意味が込められている。

 一方、「統治する」と「占領する」を用いれば、MAGAから「アメリカファースト(米国第一主義)」ではないと批判されるからである。

 米国は2000年代に入り、軍事介入を繰り返してきたが、軍事作戦が成功しても、政権交代や統治に失敗するケースが多々見られた。例えば、イラクではフセイン政権が倒れると、国内に混乱が生じて、宗教対立が先鋭化し、過激派組織ISを生むことになった。リビアではカダフィ政権崩壊後、内戦が起こり、アフガニスタンでは、結局タリバンの復活を許した。

 余談だが、筆者は首都ワシントンにあるアメリカン大学異文化マネジメントの客員研究員をしていた時、米軍に招かれて、西部アリゾナ州で開催された「文化サミット」で、4軍(陸軍、海軍、空軍、海兵隊)を対象にプレゼンテーションを行ったことがある。

 当時、陸軍の幹部は、アフガニスタンでは米軍が部族から情報をとれないので、異文化コミュニケーションの知識やスキルが必要であると考えていた。統治や占領には圧倒的な軍事力というハードパワーはなく、異文化コミュニケーションのソフトパワーが不可欠なのだ。

 トランプが意図的に“運営”を使用し、デルシー・ロドリゲス副大統領を暫定大統領に据えて、傀儡政権の樹立を選んだ理由には、米軍のイラク侵攻後、政府や軍の関係者を追放し、統治に失敗した教訓もあるのかもしれない。

 トランプ政権は、混乱や内戦を回避するために、マドゥーロ政権の統治機構をそのまま残し、“頭”のみを代えたのだ。ノーベル平和賞受賞者で反体制派指導者のマリア・コリーナ・マチャド氏や、2024年の大統領選挙で野党統一候補であったエドムンド・ゴンザレス氏を選択しなかった一因はここにあるのだろう。

オススメ記事

まだ記事はありません。