公立学校の教員採用試験(2024年度実施)の倍率が2.9倍(前年度は3.2倍)となり、過去最低を更新したというニュースが関係者に衝撃を与えている。教員志望者の減少傾向は、もはや統計上の問題ではなく、「来るところまで来た」という現場の悲鳴として受け止められている。
筆者は、県教育委員会で勤務していた際、教員採用試験(正確には選考試験)に関わった経験がある。面接では、一部の自治体において、評価の多様性を確保するため、民間企業の人事担当者など、教職以外が面接官として参加することがある。
その中で、一流企業の人事担当者が「落ちる受験者全員が欲しい」という言葉を試験終了後に思わず漏らしていた。日本の教員志望者の水準の高さを、あらためて印象づける一言であった。
しかし、今その水準が危うい。
教員採用の現場では、「3倍神話」と呼ばれる考え方が長く共有されてきた。すなわち、教育の質を確保するためには、最終的に採用したい人数の少なくとも3倍程度の倍率が必要だ、という認識である。
倍率がそれを下回れば、教育の質が揺らぐ――少なくとも採用現場では、そう受け止められてきた。教員の資質低下が指摘されて久しい中で、「2.9倍」という数字は、そうした危機感を客観的に可視化したものと言える。
文部科学省の「公立学校教員の受験者及び採用者の推移」によれば、公立学校教員採用選考試験の全国平均倍率は、2000年(平成12年)度の13.3倍をピークに減少傾向が続いている。
筆者が教育委員会で教員採用に関わっていた2000年代後半には、全国平均倍率はすでに低下局面にあったものの、それでも6倍前後は維持されていた。当時は年齢制限があり、受験会場も限られていた。関東圏や近畿圏では主要都県の一次試験日程がほぼ統一され、複数自治体を併願することは難しかったため、合格は事実上、その自治体で教員として働く覚悟を意味していた。
試験は単なる職業選択の手続きではなく、公教育の担い手となる覚悟を問う制度的装置でもあった。
現在、その前提は大きく変わっている。例えば茨城県では、一次試験の受験会場を水戸、東京、仙台、名古屋、大阪、福岡の6都市に設け、年齢制限も実質的に撤廃した。出願時期も大幅に前倒しされている。こうした傾向は他の都道府県も同様で、大学3年生対象の「早期名簿登載型選考審査」が始まるなど、全国的に「人材確保の前倒し競争」が起きている。
評価方法も、知識や技能を網羅的に測る試験から、人物・適性を重視する選考型へと転換した。厳格な選抜を行えば、そもそも受験者が集まらない――それが背景にある現実である。
合格者の会場別割合は公表されていないが、遠方会場で受験した人材が、実際にどれほど当該自治体で教壇に立っているのかは不透明だ。対策の費用対効果については、疑問を抱かざるを得ない。
それでも、議会で採用倍率という「数字」を問われ続ければ、行政は短期的に見栄えのする施策へと引き寄せられる。入口を操作する政策が繰り返される所以である。
そうした中、文部科学省は、教員免許取得に必要な大学での教職科目単位数を大幅に削減する案を示した。25年12月に中央教育審議会のワーキンググループへ示された中間まとめ案では、小学校・中学校・高校の1種免許について、従来およそ59単位以上とされてきた教職科目を、30単位前後まで削減する方針が打ち出されている。27年の教育職員免許法改正を目指すという。