
新しい自民党総裁に高市早苗・前経済安保相が選ばれた。衆参ともに少数与党ということもあり、一筋縄にはいかないとの指摘もあるものの、新首相に指名される公算が高く、10月15日には日本初の女性首相になるとみられている。
高市氏が新たに首相となる可能性が高まるなか、日本のAI政策がどのように転換するかという点も注目されている。世界では欧州連合(EU)のAI法案をはじめ、米国も安全性や透明性を確保する規制の動きを強めている。一方で日本はこれまで「過度な規制よりも産業振興を優先する」という立場を取ってきた。高市政権が誕生すれば、その傾向がさらに鮮明になるとの見方が強まっている。
本稿では、世界的なAI規制の潮流と日本の立ち位置を整理しつつ、高市政権下でのAI政策がどのように展開し得るのかを、専門家のコメントを交えながら展望する。
欧州連合(EU)は2024年に「AI法案(AI Act)」を可決し、世界で初めて包括的なAI規制枠組みを確立した。これはAIをリスクベースで分類し、高リスク分野に厳しい透明性・説明責任を課すものだ。例えば自動運転や医療AIは「高リスク」とされ、利用者への説明義務や第三者検証が必須となる。
米国では、バイデン政権が2023年に「AI権利章典(Blueprint for an AI Bill of Rights)」を発表し、公平性や説明責任を強調。さらに2024年には大手テック企業に自主的なセーフティ基準を導入させる動きを進めた。欧州のような法制化には慎重だが、国家安全保障や軍事用途では規制を強化している。
中国は国家AI戦略の下で積極的に研究開発を推進する一方、生成AIの利用に関しては「内容の健全性」を名目に厳格な統制を行っている。国内で提供されるAIサービスには登録制や検閲が課され、政治的に不適切な表現は排除される仕組みが敷かれている。
こうした世界の動向を総合すると、「AIの経済的メリットを享受しつつ、リスクを抑えるための規制」が共通の課題となっていることがわかる。
日本政府はこれまで、AI規制において欧米のような包括的な法制度を持たず、事業者による自主規制やガイドライン整備にとどめてきた。背景には、AI人材不足や研究開発投資の遅れがあり、「規制よりまずは競争力の確保を優先すべき」との危機感がある。経済産業省や内閣府はAI活用を推進する支援策を矢継ぎ早に打ち出してきたが、国際的には「規制が遅れている」との批判も根強い。
明治大学専門職大学院の湯淺墾道教授は、高市政権下でのAI政策について次のように指摘する。
「高市政権に代わって、AIというのは規制のほうに進むのか、それとも推進のほうに進むのかというと、やっぱり推進のほうに進む可能性が高いでしょう。高市さんの持論である経済安全保障やスパイ防止法の文脈から見ると、むしろ中国への対抗という方向でAI政策が組み込まれていくのではないかと思います」
つまり、日本独自の規制強化ではなく、「対中国戦略の一環としてのAI推進」が軸になる可能性が高い。湯淺教授は続けて次のように述べている。
「例えば日本国内で中国製のAIサービスや製品の使用を制限する。公的部門から排除したり、セキュリティクリアランスを強化して中国人技術者や留学生を研究現場から遠ざけるといった動きはあり得ます」
実際、米国ではすでに政府機関で中国製のIT機器やアプリの利用を禁止しており、日本も同様の道をたどる可能性が高い。特にAI関連システムに中国製が含まれることは、情報漏洩やスパイ活動への懸念を招くため、まずは行政システムや防衛関連で排除が進むとみられる。