注目すべきは、荷役機器の自動化がエネルギー革新(GX)と一体で設計されている点だ。電気コンテナトラックは無人のバッテリー交換ステーションでわずか5分ほどのうちに充電済みバッテリーへの交換を完了し、ダウンタイムを最小化する。風力タービンや太陽光パネルによる発電、水素自動車への燃料供給まで、港内で完結する仕組みが整っている。
青島港では、船の荷役からヤード内のコンテナ移動、外来トラックへの積み下ろしまで、オペレーションが一気通貫で自動化されている。独自の制御システム(A-TOS)による最適作業計画の実施により、ヤード全体の人員を8割削減しながら業務効率を約3割向上させるという成果を上げている。
重要なのは「人がいなくなった」という事実ではない。人が減ることを前提に、港湾をシステム中心に再設計したことに本質がある。
ただし、自動化の推進には現実的な壁も存在する。自動化設備は従来の有人設備に比べて初期投資が大幅に膨らみ、ROI(投資収益率)の確保は容易ではない。また、既存のターミナルを稼働させながら段階的に自動化へ移行する過程では、「移行コスト」という見えにくい負担も生じる。
成功事例ばかりが語られがちだが、失敗の教訓も直視すべきだ。ニュージーランドのオークランド港では、ソフトウェアの不具合と労働組合との対立が重なり、自動化プロジェクトが頓挫。結果として生産性をかえって低下させるという痛烈な失敗を経験している。自動化は万能薬ではなく、設計の失敗やステークホルダーとの合意形成なき推進は、投資を無駄にするどころか現場を混乱させるリスクをはらむ。
こうした現実を踏まえれば、日本が取るべきアプローチはより慎重に、しかし確実に設計される必要がある。
海外の巨大港湾が無人化へ進む中、日本の港湾が非効率かといえば、そうではない。
世界銀行とS&Pグローバルが公表するコンテナポートパフォーマンスインデックス(CPPI)によれば、横浜港は大規模な全面自動化を進めていないにもかかわらず、効率性は世界上位水準にある。数字が示すとおり、日本の港湾は「遅れている」のではなく、異なる強みの上に立っている。
理由は明確だ。日本の港湾技能者の技術水準と、長年にわたって現場で積み重ねられてきたノウハウが、際立って高い次元で融合しているからである。
その象徴が、ガントリークレーンの運転士——現場で「ガンマン」と呼ばれる熟練技能者たちの存在だ。
彼らが立つのは、地上約50メートル、ビルの15階に相当する高さの運転席である。そこから眼下のコンテナ船を見下ろし、風に煽られて巨大な振り子のように揺れる数十トンのコンテナを、数センチ単位の精度で操る。船内の「セルガイド」と呼ばれる狭い枠の中へ、空中の針穴を通すような正確さでコンテナを次々と積み上げていく様は、まさに職人芸と呼べる熟練した技術だ。
その処理能力は数字にも表れている。海外主要港のオペレーターが1時間あたり25〜30個程度を処理するのに対し、日本のトップクラスのガンマンは30〜35個、時にはそれ以上をこなす。自動化設備の導入実証で「熟練者の手作業の方が速い」との結果が出た例があるのも、こうした現実があってのことだ。
風向き、揺れ、荷重バランスを瞬時に読み、最短動線で処理する判断力は、現段階のアルゴリズムでは容易に再現できない。数値化しにくい暗黙知の厚みこそが、日本港湾の効率性を支えてきた本質である。
しかし、この強みは永続しない。40年までに担い手が約2割以上減少する中、ガンマンが体得した技能と判断力を次世代へ引き継ぐ仕組みがなければ、強みは失われていく。属人的な暗黙知に依存する構造は、もはや持続可能ではない。