だからといって、海外モデルの単純な模倣が答えではない。日本が取るべき道は、ガンマンをはじめとする港湾技能者たちが積み上げてきたノウハウを徹底的にデータ化し、AIに実装することである。
国土交通省はすでに「熟練技能者の荷役ノウハウ継承・最大化実証事業」を進めている。熟練者の視線移動、操作タイミング、判断基準を分析し、制御アルゴリズムへ反映させる試みだ。ガンマンの技をアルゴリズムに刻む——それは、人を排除するための自動化ではなく、人の知を永続させるための自動化である。それが、日本型港湾モデルの核心となる。
世界は自動化を標準とする段階へ進んだ。その中心に君臨するのが、中国の国有企業・上海振華重工(ZPMC)である。世界のコンテナクレーン市場で7割超のシェアを握り、米国港湾でも約8割を占めるとされる同社は、価格と供給力で市場を席巻してきた。
表面的に見れば、日本は後れを取っている。しかし、世界の港湾自動化を支えてきた大前提が、今揺らいでいる。
ZPMCの圧倒的シェアに対し、安全保障上の重大な懸念が浮上したのだ。米国で契約に明示されていない通信機能の存在が指摘され、有事の遠隔停止や情報収集の可能性を巡る議論は「トロイの木馬」という強い比喩で語られるに至っている。
港湾は単なる物流施設ではない。エネルギー、食料、軍需物資を含む国家の動脈である。その制御系統に潜在的リスクがあると認識されれば、議論は価格競争から安全保障の領域へと移る。
米国は排除と再構築に動いた。米国通商代表部(USTR)は中国製クレーンへの100%追加関税を課し、約200億ドルを投じてインフラの国産化を推進する方針を示した。しかし米国内には、長年にわたってクレーン製造の基盤が存在しない。
そこで注目されたのが日本である。三井E&Sとその米子会社PACECOが、米国内製造基盤復活の中核を担う存在として位置づけられた。ロングビーチ港向け大型クレーンの受注は、その象徴的な出来事だ。これは単なる商取引ではなく、「信頼」の選択である。
世界は「安さ」ではなく「信頼」でインフラを選び始めている。
では、日本は何をすべきか。
第一に、国内港湾の労働集約型モデルを知識集約型へ転換すること。第二に、職人の暗黙知を実装したターミナル運営システム(TOS)というソフトと、セキュリティが担保された国産荷役機械というハードを融合すること。第三に、それを「日本型自動化港湾パッケージ」として同盟国・友好国へ提示すること。
港湾ロジスティクスは守るべきインフラであると同時に、新幹線と同様にハードのみならずソフトもパッケージ化して輸出可能な戦略産業になり得る。
そのためには、補助金の配布だけでは不十分であり、部分的な設備更新でも足りない。標準化戦略、サイバーセキュリティ基準、データ連携基盤、人材育成、国際連携を一体として設計する必要がある。
世界の海運ネットワークが安全保障の観点から再編される今、日本には歴史的な機会が開かれている。
楽観はできない。労働力の減少は止まらず、自動化への移行コストは重く、オークランドのような失敗事例が示すとおり、設計を誤れば投資は損失になる。国内港湾のインフラ老朽化、標準化の遅れ、縦割り組織の壁——問題は山積している。
それでも、日本には他国が持ちえないものがある。現場の熟練者が何十年もかけて積み上げてきたノウハウ、数値では測れない技能の深さ、そして「信頼」という名の地政学的資産だ。三井E&SとPACECOがロングビーチで示したのは、日本のモノづくりと誠実さが、いまなお世界に求められているという事実である。
自動化の波に乗り遅れたように見えて、実は日本は「次のステージ」の入口に立っている。価格で勝負する時代が終わり、信頼で選ばれる時代が始まった。日本が長年守り続けてきた品質・安全・誠実さは、弱点ではなく最大の武器になる。
労働力減少という制約は変えられない。しかし、設計思想は変えられる。港湾を「人が支える産業」から「知が支える産業」へ。価格競争から信頼競争へ。前提が崩れる時代は、再設計できる国が主導権を握る。
高市政権の成長戦略に掲げられた「港湾ロジスティクス」を、スローガンで終わらせてはならない。構想を言葉で終わらせず、実装までやり切ること——その先に、日本の港湾が再び世界の海へと打って出る未来がある。