米・イスラエルがイランへの攻撃を仕掛けハメネイ最高指導者を殺害して以降、イランを巡る情勢が緊迫している。イラン・イスラム共和国の専門家会議は3月9日にハメネイ師の次男であるモジタバ・ハメネイを第3代最高指導者に指名し、これまでの保守強硬路線を踏襲する姿勢が明らかにされた。
そのモジタバ新指導者は3月12日に最高指導者として初の声明を発出し、殉教者たちの血の報復を諦めることはないとした上で、ホルムズ海峡封鎖を続けるとの方針を打ち出した。2月28日の攻撃で負傷したとも伝えられる同師の下、イラン・イスラム共和国体制は、甚大な被害を受けたとはいえ、現時点で崩壊の兆しを見せていない。
今後、イラン体制はどこまで米・イスラエルからの圧力を耐え凌ぐことができるのだろうか? トランプ大統領は攻撃直後、イラン国民に蜂起を呼び掛けたが、イラン国内の動きをみてみると、現状そのようには物事は動いていない。本稿では、イラン国民の動向と米・イスラエルの出口戦略に着目して、イランの今後を占ってみたい。
まず、米国が開戦に当たって戦略目標を明確に掲げていない点を指摘する必要がある。もしも米国が「イランは差し迫った脅威」である点を重視するのであれば、理論上、イラン現体制が親米政権に転換する、ないしは、体制そのものが崩壊しない限り攻撃は続くことになる。その場合、行政機能の麻痺、軍事・重要インフラ施設の破壊を含めた、更なる大規模な空爆の継続が想定される。
一方で、イランの核兵器保有を問題視しそれを認めさせないとするのであれば、イランの核開発能力を削ぎ落すことが達成目標となる。この場合、核関連施設への空爆、高濃縮ウラン製造能力の奪取(あるいは第三国への移送)が行われることになる。ミサイル・ドローン開発能力削減の場合でも考え方は同様である。
確認しておくと、現在、イランは大陸間弾道ミサイルを有していないため、米国本土がイラン領内から直接のミサイル攻撃を受けることはない。他方でイスラエルはイランのミサイル射程圏内に位置していることもあり、イランの核兵器保有、ミサイル・ドローン攻撃、代理勢力を通じた不安定化工作を「実存的な脅威」と捉えている。イスラエルのネタニヤフ首相の意向が、今後の戦局を大きく左右することになる。
一方のイランは、「イスラム法学者による統治」の下、抑圧への抵抗と被抑圧民の救済をいわば国是とし、米・イスラエルの暴挙を理不尽なものとみなし、徹底抗戦の構えをみせている。新最高指導者として世襲でモジタバが選出されたことも、従来の反米路線を踏襲する立場の表明と受け止めることができよう。
モジタバは、1969年生まれの56歳で、本格的にイスラム法学の勉強を始めたのは比較的遅い年齢だったといわれる。イラン・イラク戦争時(1980~88年)に革命防衛隊情報機構との関係を築いたとされ、今でも同隊と近いとされる。
これまで政治の世界で要職を担ったことはなく、その政治的手腕は未知数である。原因は不明だが、最高指導者就任以降、現時点まで表舞台に姿を現していない。3月12日付声明も、イラン国営テレビのアナウンサーによって読み上げられた。
当面、モジタバが革命防衛隊を代弁するような形で、「お隠れ」状態のまま国を統治する可能性はあるだろう。
こうした状況の中、注目されるのがイラン国民の動向である。近年では、2022年秋に始まったヒジャブ抗議デモ、25年12月末に始まった全国での反体制デモの拡大にみられたように、イランでは多くの国民が現体制に不満を持っていると考えられてきた。開戦後、その実態はどうなのだろうか?