AI技術の発達で診療はどうなる?最新研究から見るAI汎用化時代の医療、家庭医にしかできない役割とは

2026.04.06 Wedge ONLINE

 『プレコンセプション・ケア』については、このシリーズで2022年10月に書いた『妊活する夫婦が知っておくべき健康のこと』を参照してほしい。本来は妊娠を計画する前からカップルで始めるのが理想ではあるが、R.S.さんの事情はそれを許さなかった。

 もし近未来にAIがもっと発達したら、出生前診断がターゲットとする胎児の染色体異常症などのそれぞれについて、わかりやすい解説動画が生成されてオンラインで視聴できるようになるだろう。それぞれの有病率(妊婦の年齢が影響することが多い)、検査の感度・特異度から計算できる「検査が陽性だった時にその疾患に罹っている確率」である陽性的中率(positive predictive value; PPV)、および「検査が陰性だった時にその疾患に罹っていない確率」である陰性的中率(negative predictive value; NPV)についても、理解しやすい教育ツールが生成されるだろう。

 比較的手軽な血液検査である非侵襲性出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal [genetic] testing; NIPT)の結果が陽性だった場合、「かなり高い確率で胎児がその染色体異常症に罹っている」と考える人が医療者にも多いが、これは誤りである。これらの染色体異常症の有病率が例えば1000人に1人程度だとすると、感度・特異度がかなり優れた検査でも結果が陽性の場合に真に疾患がある確率(PPV)は3割程度である。だから診断を確定するためには更なる検査が必要となる。

脳性麻痺の息子と心血管リスクが高い父親

<本日の患者3>
K.M.さん、73歳、男性、町工場手伝い。
N.M.さん、40歳、男性、K.M.さんの一人息子。

 N.M.さんは出生時から脳性麻痺で、運動障害と知的障害があり、けいれん発作を起こしてきた。母親はN.M.さんの出産後まもなく亡くなっており、K.M.さんが男手一つでN.M.さんを育ててきた。

 K.M.さん自身には、高血圧、肥満症、脂質異常症、糖尿病があり、心血管リスクは高い。何とか生活習慣を改善したいと本人も願っているが、N.M.さんの日々のケアで忙殺され、なかなか行動に結びつかないジレンマを感じている。町工場の熟練の機械工として勤め上げとっくに定年を過ぎたが、まだその腕を頼りにされて町工場を手伝っている。

 近未来にAIがもっと発達したら、K.M.さんとN.M.さんのケアのマネジメントを短時間に統合させるアプリによって、2人の食事と運動を記録し、次の目標へ向けた行動科学を利用したメニューを提案してもらえるだろう。ウェアラブル端末によって、K.M.さんの行動変容の進捗状況はクリニックのケアチームにも共有することができ、多職種保健チームのメンバーからのアドバイスもインプットできる。

研究にみるAI汎用化時代の医療<1>

 医療や介護の現場でAIがもっと広く深く利用されるようになったら、生身の人間が行うケアはどうなるのか。AI汎用化時代の幕開けに対応すべく、主要な総合医学雑誌でも相次いで重要な論文などを出版している。

 まず注目したいのは、米国医師会雑誌『JAMA』が25年10月13日に発表した『AI、健康、そして医療の現在と未来』と題する主として米国のエキスパートたちによるサミット報告書である。ここでは、AIが健康と医療サービスにもたらす変革の規模と速度は極めて大きいと指摘し、それを「機会」と「リスク」の両面から詳細に検討している。

 ごく簡単に要約すると、AIは医療のあらゆる領域を変革するポテンシャルを持つ一方、効果・安全性の評価、規制体制、データ基盤整備、利害関係者協働といった要素が不十分なままでは、期待どおりの成果が得られない可能性が高いと総括している。特に、医療の公平性や患者のアウトカムの改善を本当に実現するためには、単なる技術の普及ではなく、堅牢で一般化可能な評価と監視の仕組みが不可欠であることを強調している。