AI技術の発達で診療はどうなる?最新研究から見るAI汎用化時代の医療、家庭医にしかできない役割とは

2026.04.06 Wedge ONLINE

研究にみるAI汎用化時代の医療<2>

 英国の医学雑誌『ランセット』では、デジタルヘルス全般を扱う月刊誌『The Lancet Digital Health』を刊行し、AIについての研究を継続的に取り上げている。医療におけるAIの急速な利活用の展開とリスクについての議論、生成AIを医療画像に応用する展望、AIとデータの公平性と倫理に関する議論、AIの多モーダル活用(複数種類データの統合)と責任ある実装に関する論考などが掲載されている。

 英国医学雑誌『The BMJ』でも、しばしばAIをテーマにした論文が掲載されている。中でも目を引くのは、AIの医療への実装が英国のNHS(国民保健サービス)にもたらす変革に関する議論、そして、生成AIが提供する健康関連情報の質と安全性についての議論である。後者では、AI生成情報の虚偽・誤情報リスクと監視・ガバナンスの必要性を強調している。   

 『The BMJ』でも AIによる医療格差・公平性への影響についての論考を掲載していることは、これがAI汎用化時代の医療にとって重要なテーマであることを示していて注目に値する。

 この項の最後に、最近の主要な論文のテーマとその研究から得られる示唆を挙げてみる。

AI汎用化時代の家庭医の役割

 こうしてAIと医療についての議論をフォローしてみると、その背景に「AIが汎用化するほど、人間にしかできない高度な判断の価値が上がる」という大きなパラドックスというかパラダイムシフトが見えてこないだろうか。これを私の患者たちのケアに当てはめて、家庭医の役割について振り返ってみたい。

① Y.A.さん、M.A.さん

 「AIによる効率化」がもたらした「時間の余裕」で、M.A.さんにもケアのフォーカスを当てることができた。もちろん、近未来のAIは「介護負担の数値化」はもとより、「介護者のうつに注意!」というアラートを出すこともできるだろう。

 だが、そうしたAIのサポートは参考にしつつも、M.A.さんの気持ちに寄り添い、彼女が義母Y.A.さんに感謝と敬意の念を抱きつつも「家族の絆の軋み」を感じ恐れ始めていることを聴き出して理解するのは人間である家庭医だ。

 家庭医は、Y.A.さんの治療計画に「M.A.さんの休息」を組み込み、地域のケアマネジャーと連携するかもしれない。それは単なる医療行為ではなく、家庭医が提供する「包括的な家族ケア」の一環である。「家族というシステム」がうまく機能して、Y.A.さんのケアが持続可能となるようにマネジメントをすることも、家庭医の仕事である。

② R.S.さん

 ここでは「信頼の基盤」が重要である。

 AIは、出生前診断のターゲットとそれぞれの検査の意味を理解するための教育ツールは提供してくれる。膨大なリスクのデータも教えてくれる。だが、R.S.さんが生きてきた歴史と価値観を理解した上で、シングルマザーとして彼女がこれから送る毎日の生活感というか『手触り』までは教えてくれない。

 AIは最適な「検査・治療ルート」のシミュレーションを提示できても、R.S.さんの「人生の選択」を正当化することはできない。彼女がどんな意思決定をしても、それを尊重し、R.S.さんと産まれてくる子にとっての「真の代理人」としての家庭医が必要である。

 家庭医は、AIが導き出す「最適解」を患者が納得できる「納得解」へと変える触媒になるだろう。技術革新が進むほど、誰にも相談できない重荷を背負った患者にとって、共に悩み、不確実性に耐え、意思決定の責任を分かち合う「人間の家庭医」の存在が不可欠になる。

③ K.M.さん、N.M.さん