衆議院の解散をいつ行うかは国が決めることであり、地方自治体がとやかく言うことではない。しかし、候補者のポスター掲示板を立て、期日前を含めた投票所を設置して職員を配置し、深夜まで開票作業を行うのは国でも都道府県でもなく市町村の職員であることを忘れてはならない。
国が決めたお米券の配付も、地域商品券の配付などの工夫をして実際に国民に配付するのは国家公務員でなく地方公務員である。地方自治体も人手不足により、民間会社に事務作業などを委託することも多いが、それでも相当の事務量がある。
高市早苗政権は「日本列島を、強く豊かに。」と言うが、それは国の各省庁の組織や予算を充実するだけでは実現しない。市町村の行政を充実させ、地域で働く人たちを大切に育てていく努力が必要だ。
日本の人口は2008年をピークに減少しているが、地方自治法に定める20の政令指定都市の過半数は人口が増えている。東京23区の合計人口も増えている。増える人口の構成を見るといずれの都市も生産年齢人口が増加の中心である。仕事を求めて大都市に流入する。
人口の流れは経済の流れでもある。政府の25年版『土地白書』によると、政令指定都市のうち代表的な札幌・仙台・広島・福岡の4都市平均の公示地価上昇率は、25年に三大都市圏(東京・大阪・名古屋)の4.3%を上回り5.8%上昇している。この年に限らず近年この傾向が続いている。東京一極集中というより、大都市への集中なのだ。
このような傾向は日本に限らない。ニューヨーク、ロンドン、パリなどいずれも大都市圏域への人口と経済の集中が続いている。工業化時代に大規模工場が地方都市に立地していたのに比べて高度情報時代には、異分野・異業種の対面による情報交流がビジネス・チャンスを拡大し、商業・サービスも多様化し、地域集約産業だけでなく周辺業種に従事する人々も大都市に移動する。
国家の政策として地方を充実する努力を怠ると経済原理・市場原理に従って地方は急速に過疎化・高齢化による疲弊が進行する。国は地方創生のための予算を充実させているが、市町村の政治と行政を充実させないと効果は上がらない。
大都市には人も情報も集まるから熱意と創意がある人は創業できる。しかし、地方で創業するには市町村をはじめとした地域の組織やグループの支援が不可欠である。いったん大都市に出てから故郷に帰って創業した2人の青年の例を紹介しよう。
東京都には人が住む島が11ある。そのうちの一つ、八丈島で新規に農場を建設し就農した浅沼壮さんは八丈島出身で現在44歳。30代で島に帰り、八丈町がつくった研修農場で4年間、施設園芸を学んだ。
ここでは、農場で学びながら自分が農場で生産し、出荷して得た収入は自分のものにできる。浅沼さんはその収入で生活資金を稼ぎながら、島内に30アールの農地を取得し、約100坪のハウスを15棟建てて、主としてレザーファン(花束や盛り花に使う葉)を生産販売している。
就農してから7年を経て現在は夫婦2人を含め6人で営農している。
大型で強い台風が通過する八丈島だから耐風強化型の頑丈なハウスをつくった。農地や機械類の取得費用も含め数千万円を日本政策金融公庫からの借り入れでまかなった。毎年の返済額はかなりの額となるが、レザーファンは日持ちするので大規模に営農すれば島外の市場で一定の値がつく。7年を経て経営は立派に成り立っている。