減り続ける自治体職員、「都道府県」制度は持続可能なのか?元東京都副知事・青山佾氏が語る地方創生への処方箋、カギを握る「愛郷心あっての愛国心」の考えとは

2026.04.13 Wedge ONLINE

 山口伸太郎さんは現在41歳。高校卒業後、島外に就職し、30代で長崎県五島列島の福江島にUターンして地元のJAに勤務を始めた時、家業は野菜・果実の生産のほか牛の繁殖だった。まもなく家業を継いだ山口さんは、子牛を出荷し、肥育が島外で行われている限りは五島牛がブランドにならないので、肥育も島内で行うことを考え、黒毛和牛の繁殖・肥育から精肉店・レストランまで一貫経営を行う「やまぐちファーム」という会社をつくった。

 今では自ら約90頭を育てるほか、約60頭を近隣の農家に委託して肥育する。牛舎で使うおが屑は林業組合から仕入れ、清掃後はコンポスト化して約65枚の畑で堆肥として使用する。畑では牧草のほかコメ、メロン、野菜などを生産し究極のリサイクル農業を実現した。精肉は顧客にクール宅配便で送るから子牛や成牛の販売と違って離島のハンデがない。家族を中心に9人で働いている。

肉の味が評価され、各種コンクールで入賞も果たす(福江島)(筆者撮影)

 牛にとってストレスのない清潔で快適な環境を実現するため、地元JAや五島市の協力を得て国の畜産クラスター事業の資金などを活用し、牛舎の清掃やえさやりなど、作業の自動化・機械化を実現した。

 八丈町の浅沼さんも五島市の山口さんも国の資金を使っているが、浅沼さんは八丈町の研修農場があったからこその就農であり、山口さんもJAや地元の協力を得て牛肉の一貫生産を始めた。国の資金も地方の市町村や現場の業界組織が十分な対応をしなければ活用されない。

 浅沼さんは「町の研修農場で研修中に創業後の収入と支出の計算を何度も行った。この計算を間違えると返済が厳しくて営農を続けることができない」と強調している。山口さんは畜舎を徹底して自動化してマンパワーを販売などに回す経営スタイルをつくった。

 共通しているのは、Uターン、地域や家族の協力、国の資金の活用である。さらに重要なのはレザーファンの大量出荷による八丈ブランド、黒毛和牛の一貫生産による五島ブランドと、いずれも青年たちが故郷のブランドを売り出そうとしていることである。彼らは同業の仲間を増やすことに努めている。すなわち「愛郷心」を再生産している。

 愛郷心はかけ声だけでは育たない。郷里の風土に合った商品やサービスを提供することで生計を立てられるよう資金とノウハウを提供し、彼らの創造力を発展させるため手を貸すことが大切だ。「愛郷心あっての愛国心」ではないか。そのためには地域の充実が大切である。

 国土を守るのは軍事力だけではない。地域が充実してこそ国土が守られる。2000年に東京都の新島村で大きな地震があり、島内各地で崖崩れがあった。島の北部には数百人が住む若郷という集落があった。天然の良港があり、漁業で栄えている。

 当時東京都の副知事だった筆者はすぐにヘリで現地に飛んで若郷の港の埠頭に降りた。島の中央部と結ぶ崖沿いの道が大きく崩落していて、土木の専門家の見解では崖沿いの道を再建してもまた崩落する恐れがあるということだった。

 政府首脳も次々と視察に来て、国費が出る見込みも立ちトンネルを掘ることが決まった。数百人の住民のために100億円超の金をかけるのか、という声も実際に届いたが、若郷の人たちと新島村役場・村議会の熱心な要望もあり、「平成新島トンネル」はつくられた。おかげで今も若郷に人々は住んでいる。

新島村の「平成新島トンネル」。全長約2800メートルを誇る(PHOTO AC)

 東京都という都道府県機能だけでトンネルはできなかった。村が地域の声を代表し、地域を守ろうと声を上げたから、国土が維持された。近年、国は「こども家庭庁」や「デジタル庁」など次々と新しい「庁」をつくり、組織を拡充している。「防災庁」の設置も間近かもしれないが、市町村という基礎自治体を充実させることにこそ意を用いるべきだ。