タナー氏が採用したCNNの要員たちは、三大ネットワークの中でくすぶっていた若手記者やプロデューサー、ベテランの記者たちだった。
ターナーと並んで「メディア王」と呼ばれる、ルパード・マードックがさらに新たなメディアの扉を開ける。時代は、衛星放送の時代に突入しようとしていた。
日本にも「マードック旋風」が巻き起こった。98年6月に来日したマードックは、2年以内に150チャンネルのCSデジタル放送JスカイBを開始すると発表した。
ほぼ同時に、ソフトバンクの孫正義代表が指揮をとって、テレビ朝日放送の株式の20%以上を旺文社から取得した。親会社であった朝日新聞をはじめとする、日本のメディア界の反発が巻き起こったために、ソフトバンクはテレビ朝日の株式を朝日新聞社に譲渡して、計画は実現しなかった。
マードックと孫正義が構想していたのは、テレビ朝日のニュースやスポーツ、ドラマなどを多チャンネルで展開しようというものだった。しかし、この構想は実に四半世紀近く後の2016年にサイバーエージェントとテレビ朝日が「AbemaTV(現・ABEMA)」として実現したのだった。
「マードック旋風」は、インターネットが急速に普及する時代の前であり、「ABEMA」はインターネットの普及がベースにある。しかしながら、マードックによる構想にテレビ朝日が乗っていれば、デジタル化に遅れた日本のテレビや新聞に大きな影響を与えた可能性があったかもしれない。
メディア業界に衝撃を与えたCNNがスタートしてから、わずか半世紀近くの時しか刻んでいない。デジタル情報革命は「ストリーミング」という形で、メディア界に何度目かの大きな波が押し寄せている。NetflixやYouTube、ディズニーチャンネルやHuluなどの配信プラットホームである。
放送の世界の風雲児だったターナーが亡くなり、マードックが影の実力者といわれているが現役を引退した形である。ふたりが切り開いたメディアの地平に新たなサービスが勃興しているのである。タナ―が最後にみたメディアの風景と、マードックが今みている風景について、ふたりの感想を聞きたいところである。
米国の調査会社のニールセンによると、全米の25年12月の全テレビ視聴時間のシェアは次の通りである。
ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)をめぐって、Netflixとパラマウントが激しい買収合戦を繰り広げたのは、WBD傘下のCNNの行方も重要ではあったが、その中核には、プラットホームを通じて配信するコンテンツの制作と配信にあった。
パラマウントが買収価格を引き上げたために、Netflixは断念して軍配はパラマウントにあがった。しかし、買収の失敗によってNetflixの株価が上昇したことは注目に値する。ハリウッドのスタジオに依存しないコンテンツを中心としてきた、ビジネスモデルつまり制作費や配信に資本を投下したほうが良いという判断がある。
特に、スポーツ分野の独占配信に注力する方針を出している。野球の国際大会・ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の放映権を獲得し、会員しか視聴できなかった出来事は記憶に新しい。