産経新聞は2026年5月5日、独自報道として「情報活動人員3.3万人、警察が6割超…国内に集中 初判明、規模は英仏独上回る」と報じた。内閣情報調査室(内調)が同紙の取材に回答したもので、日本の情報活動従事者は約3万3000人にのぼり、うち約2万1000人が都道府県警察の警備部門(機動隊を除く)で占められるという。
確かに日本の総数は英仏独を上回る。だが内実は、対外情報ではなく国内治安に偏った構造であることが、政府自身の数字で示された格好だ。
筆者はこの数字に接した直後、Xで「6割が警備公安警察とはインテリジェンスのベクトルが主権者に向けられていることを意味する」と発信し、多くの反響をいただいた。本稿では、国会で審議中の国家情報会議設置法案(以下「法案」)と最上位の政策文書「国家安全保障戦略」の論理に照らし合わせ、インテリジェンス体制構築の課題をあぶり出していきたい。
法案は、4月23日の衆院本会議で可決され、今国会での成立が見込まれる。要諦を一言でいえば、首相を議長とする閣僚級の「国家情報会議」を新設し、内閣情報調査室を「国家情報局」に格上げして事務局とするものだ。同会議が調査審議する対象は「重要情報活動」(①安全保障、②テロリズムの発生防止、③緊急事態への対処、④重要な国政運営)と「外国情報活動への対処」の重要事項とされる。
注目したいのは、1998年設置の内閣情報会議からの拡張だ。従来の官房長官主宰の次官級会議が閣僚級に格上げされ、財務相・経産相・国交相・金融担当相がメンバーに加わった。経済安全保障やサプライチェーンを含む「軍事と非軍事の境目の曖昧化」を反映した形だ。
そして、国家情報局が情報を提供する「カスタマー」が、首相官邸、国家安全保障会議、国家安全保障局、各省庁と明示された。重要なのは国家安全保障会議との関係。同会議は総理・官房長官・外相・防衛相がメンバーの「四大臣会合」を頂点とする、外交・防衛に関する最高意思決定機関だ。
つまり、国家情報会議と国家情報局の存在意義は、外交・防衛上の意思決定に資するインテリジェンスを供給することにあり、法執行や国内治安維持を主目的としない。
外交・防衛の意思決定者が求める情報の中身は何か。答えは「国家安全保障戦略」にある。
同戦略は「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面」と明記し、懸念対象として中国、ロシア、北朝鮮を挙げる。安全保障の脅威が周辺国にあることは自明だ。
他方、法案は「重要情報活動」4本柱の一つに「テロリズムの発生防止」を置くが、周辺国の脅威とテロを同列に扱っていいのか、冷静な評価が必要だ。公安調査庁の「国際テロリズム要覧2023」も、ロシアによるウクライナ侵略や各国による重要技術の確保競争を挙げ、国際社会が安全保障上重視すべき対象が拡大していると指摘している。テロから国家間競争へと、安全保障の射程が広がっていることを政府機関自身が認めたとも言える。
加えて、米国の国防政策転換の影響は甚大だ。22年の「国家防衛戦略(NDS)」は中国を「最も重要な戦略的競争相手」と明記。第2次トランプ政権の26年新NDSはこれを徹底させ、「終わりのない戦争」から手を引き、本土防衛と対中抑止に「選択と集中」する方針を示した。対テロ戦争の時代は終わり、安全保障の主戦場は大国間競争へ移った。
日本の重要情報活動が向き合うべき第一義は国家間競争に関わる情報であり、テロは二義的だ。過去30年以上、国内で国際テロの実行事案は見当たらず、邦人被害テロも海外での「巻き込まれ型」がほとんどである。いずれも海外での情報収集が鍵を握る事象であり、警察を中心とする国内インテリジェンス体制を温存する根拠にはならない。