22年のロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇はインフレを引き起こした。その結果、発電量当たりの重要鉱物、資機材の使用量がもっとも多い洋上風力設備のコストは大きく上昇し、欧米だけでなく日本でも事業者の撤退を引き起こした(三菱商事は悪者なのか?洋上風力撤退の決断を数字で検証してみた、ガラガラポンの発想転換が必要な理由 Wedge ONLINE)。
ホルムズ危機も、多くの資機材の価格を既に上昇させインフレを引き起こしている(終わらないイラン攻撃で値上げの夏に直面する日本…補助金を続けるほど日本のエネルギー価格は上昇する! Wedge ONLINE)。
太陽光、風力発電設備は、火力、原子力発電設備との比較で、重要鉱物だけでなく多くのセメント、鋼材、アルミなどを使用するので(図-4)、再エネ設備への投資額を上昇させ、結果として発電コストも上がってしまう。インフレ抑制のための金利引き上げも投資額が多い再エネには大きく影響する。
再エネ設備は、原子力、火力発電設備よりもインフレと金利上昇に弱く、洋上風力事業に見られたように、競争力を急速に失うことがある。インフレの進み方が再エネ設備の競争力を決めることになるので、事業者は慎重な判断を迫られる。
化石燃料価格が上がり、供給にも問題があるから、再エネで代替と言うほど単純な話ではない。燃料価格の上昇が引き起こすインフレと金利の影響を考えると難しい判断になる。
では、中東とは無縁の輸出国から供給される石炭を利用すれば、エネルギー危機の影響を和らげられるのだろうか。
気候変動問題が注目を浴びるようになってから、石炭火力は環境活動家の攻撃の的になった。欧州の活動家は石炭火力の廃止を求め、欧州の多くの国も石炭火力の廃止年を定めた。
たとえば、国内に褐炭(品質が悪い石炭)炭鉱を持つドイツは、38年に石炭火力全廃を決めた。フランスは来年石炭火力を廃止する計画だ。欧州主要国は石炭火力廃止を決めているが、その背景には欧州主要国が国内の石炭を掘りつくした事情がある。
欧州の石炭火力は内陸部の炭鉱の隣接地に建設されている。石炭の輸送費は高くつくので、経済性から当然の立地の選択だ。
欧州主要国の石炭生産は、採炭条件の悪化、埋蔵量の枯渇を反映し減少を続けている。生産の落ち込みを輸入炭で補うとすれば、荷揚げ港から鉄道、はしけ、トラックで輸送する費用は高くつきコストが上がる。
炭鉱の閉鎖に合わせ老朽化した発電所が廃止されるのは経済性から当然の選択だ。気候問題がなくても閉鎖されるはずだ。
日本の石炭火力発電所は、当初から輸入炭の利用を前提に大型港湾を備えた沿岸部に建設された。価格競争力のある輸入炭なので低コストだ。設備も欧州ほど古くない。
石炭は、政治経済的に安定した北米、オーストラリア、インドネシアなどで生産されており、日本は石油とは異なり主としてオーストラリアから輸入している(図-5)。
日本政府は、気候変動対策のためとして発電効率42%未満の非効率石炭火力を段階的に廃止する方針だ。そんな中、ホルムズ危機を受け石炭火力の利用を考えるべきとの声があがる。危機の緩和に貢献すると言うが、本当だろうか。
20年に菅義偉首相(当時)が50年温室効果ガス実質排出量ゼロを宣言してから、日本政府のエネルギー政策の第一の目標は気候問題になったようだ。
GX(グリーントランスフォーメーション)を掲げ、水素、電気自動車(EV)、再エネ設備など脱炭素投資による経済成長を目標とした。10年間で150兆円の投資を謡った。政府は20兆円を先行投資するが、後に炭素価格を通し民間から回収されるのですべて民間企業による投資だ。