米国とイランの暫定合意に基づく直接交渉が始まった。ホルムズ海峡が条件なしで開放されるのか、まだ分からない。100日以上続いたホルムズ危機は、原油、石油製品と肥料の供給の減少、価格の上昇を通し世界に大きな影響を与えた。
世界の多くの国は、燃料を対象に補助制度を導入した。気候変動問題に熱心に取り組み炭素に価格を付けた欧州の多くの国も、背に腹は代えられないと補助金により燃料価格を引き下げた。
日本政府も「中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置」として、暫定税率の廃止により、一度打ち切られた燃料油(ガソリン、軽油、重油、灯油、航空機燃料)への補助金支出を今年の3月19日から開始した。
原油価格の上昇は、液化天然ガス(LNG)と石炭の価格にも影響を与えた。LNGと石炭火力に発電量の約3割ずつを依存する日本の発電コストも上がり、この夏から電気料金が値上がりする。7月からの補助金が多少家計の助けになる。
中東に供給量の4割を依存していたナフサの価格も上がり、ナフサから製造されるプラスチック、塗料、合成ゴムなど多くの商品も値上がりした。
60日の交渉期間後ホルムズ海峡が完全に開放されれば、石油の需給も変わり、ナフサを原料とする商品の価格も下がるのだろうか。値上げの夏の後、値下げの秋を迎えられるのだろうか。
米国の主要メディアの多くは米国が負けたとみているようだ。世界最大の軍事力を持つ米国が、数日で終わると見込んだ戦争の収束に100日以上費やし、まだ暫定段階の合意しか得られていない。
軍事力で劣るイランは、自国製ドローンを武器に湾岸諸国の米軍基地や精油設備も攻撃し、ホルムズ海峡を封鎖した。ドローン攻撃を警戒した米国海軍は、ホルムズ海峡を通過する船舶の護衛もできないことを露見した。
護衛を呼びかけられた同盟国も、米軍ができないことをできるはずもなく、結果として残ったのは、米国と同盟国間の亀裂だけだった。
トランプ大統領の発言は揺れ動き、イランとの合意、ホルムズ海峡開放に関する矛盾する発言が何度も繰り返された。トランプ大統領と米国に対する同盟国の信頼は大きく傷ついた。
イランが勝ち取ったものは大きい。世界はホルムズ海峡を持つイランの力を知った。14項目の暫定合意の中にイランに対する「すべての制裁の解除」、復興と経済開発を目的とした「3000億ドル(約48兆円)の資金調達」、「凍結資産の解除」が織り込まれている。詳細条件は交渉次第だが、イランは勝ち取ったと考えているだろう。
米国内には、地上戦まで踏み込めば勝てたとの声もあるが、トランプ大統領は踏み込めなかった。地上戦になれば、イランの湾岸諸国へのドローン攻撃による被害に加え、米国経済と世論への悪影響も見込まれた。
米国の各種世論調査の結果をまとめているシルバーバレットによると、6月21日現在のトランプ大統領の支持率は39.1%、不支持率は57.8%だ。イランとの開戦直後3月2日の支持率は42.2%、不支持率は54.9%だったので、戦争は支持率を落とした。
イラン戦争への支持は、開戦直後の35.1%から38.2%に3.1%上昇したが、不支持は47.3%から55.6%に8.3%増えている。開戦直後に意見がなかった人たちが反対に回ったようだ。
背景には、米国の世帯の大きな支出項目であるガソリン価格の上昇がある(図-1)。開戦前1ガロン当たり3ドルを切っていたが、ピーク時には50%上場した。今は4ドルを切ったが、依然30%以上上昇したままだ。