スターマーの辞任とバーナムが就任、サッチャー政権から広がるイギリス政治の混乱…日本が学ぶべき教訓とは?

2026.07.29 Wedge ONLINE
(RICHARD BAKER/GETTYIMAGES,WPA POOL/GETTYIMAGES)

 2026年6月、スターマー首相が辞意を表明し、英国政治が再び大きく揺れている。24年7月の総選挙で労働党が14年ぶりに政権に返り咲いてから、2年に満たない在任期間であった。16年に欧州連合(EU)残留の是非をめぐる国民投票が行われて以来、10年間で6人目の首相だが、彼もまた長続きしなかった。

 

 辞任の直接的な引き金になったのは、5月に行われた地方選挙の大敗である。この選挙は、中心部イングランドでは136の地方自治体の議会、北部スコットランドと西部ウェールズでは、近年の地方分権により独自の立法・行政権限を与えられたスコットランド議会・ウェールズ議会の議席を争うものであった。

 結果は二大政党の労働・保守両党にとって、厳しいものになった。躍進したのは、左右のポピュリズム政党であるリフォームUKと緑の党だ。とりわけファラージ党首率いるリフォームUKは、イングランドで合計議席数でも得票率でも第一党となった。労働党は、地盤としてきた北部では移民に厳格な姿勢をとるリフォームUKに議席を奪われ、逆に南部ロンドンでは、環境保護やEUとの関係改善に積極的に取り組むよう求める有権者の票が、緑の党や自由民主党に流出した。ウェールズ議会選では、英国からの独立を支持するプライド・カムリ党が初めて第一党となり、スコットランド国民党が第一党の地位を維持したスコットランドと共に、ウェールズでも民族主義政党が政権を担うことになった。

 選挙結果を一言でまとめれば、「有権者の分極化と多党化の進展」となるだろう。その一因は、国民が経済面で抱く〝不満〟にある。中東での戦争により再加速したインフレ、不動産価格の高騰、インフラの老朽化、AIの発達による若者の就職難など、不満の種は尽きない。

 加えて、欧米先進国の多くと同様に、個人の自己決定や環境保護、グローバル化を支持する社会的リベラル派と、それに反対する社会的保守派との対立が英国でも顕著になっている。英国の場合、大政党に有利な小選挙区制で国政選挙が行われることが多党化への歯止めとなってきた。しかし10年前の国民投票でリベラル派がEU残留を、保守派が離脱を支持し、国論も二大政党内部も真っ二つに割れたことで政党支持の流動化が進み、政治が不安定化した。

 スターマー首相が、何もせずに手をこまねいていたわけではない。むしろ労働党政権は、国民投票でEU離脱を支持した労働者層の支持を取り戻し、英国社会の分断を緩和しようと、様々な手を打った。借家人や労働者の権利の拡張、最低賃金の引き上げなどを通じて、普通の人々の生活状況の改善を図る一方、高級不動産や私立学校の授業料への新規課税により、格差の縮小にも取り組んだ。就労ビザを抑制したことで、25年の新規移民は17万人余りと、12年以降で最低の数字となった。

 他方で、EU再加盟や単一市場への参加は分断を再燃させかねないとして封印した。確かに、性犯罪で起訴され拘留中に死亡した米富豪エプスタインと関係の近いマンデルソンを駐米大使に任命するなど、判断ミスがなかったわけではない。また、カリスマ性に乏しく、有権者がキャラクターで政治家を選ぶ時代に向いているとは、お世辞にも言えない。

 しかし短命政権に終わった最大の原因は、EUとの関係を安定させつつ離脱派労働者の支持を取り戻そうとする姿勢が、離脱派・残留派のどちらからも中途半端とみられたからだ。スターマー首相は、世論調査の結果に振り回され、自らの政治的ビジョンを訴える姿勢が欠けていた。

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