GMOインターネットグループは7月13日付で、在宅勤務を推奨する方針を完全廃止したそうである。併せて、同グループの熊谷正寿代表がSNSで「在宅勤務はマイナス」といった旨を発信しているが、これに関しては賛否両論が起こり、改めて論争が起きている。
ちなみに、予想外のネット世論の反応に対して熊谷氏は「『表現の過剰性』で誤解を生んだ」と謝罪を表明した。一方で、「原則出社」というグループの基本方針は変更していないようで、育児や通院といった個別の事情には柔軟に対応するものの、基本的には出社回帰という宣言を撤回したわけではないとしている。
このように、出社回帰の風潮は、ここへ来て顕著となっている。コロナ禍でリモート勤務を進めた大手企業などは、まるで反動のような形で出社を進めている。通勤ラッシュもいつの間にかコロナ禍以前に戻ったかのようだ。
アメリカでも同様の事情があるかというと、流れとしては確かにある。コロナ禍においては100%、つまり週5日のリモート勤務が当たり前となっていたが、その後は徐々に出勤を促す動きが大きくなっている。ニューヨークの場合を例に取ると、2019年以降のコロナ禍の期間には、感染拡大だけでなく昼間人口の激減による治安の悪化が発生した。
90年代に当時のジュリアーニ市長が大幅に改善した市の治安だが、これが完全に崩壊してしまい、特に地下鉄の構内と車内にはホームレスが溢れた。ニューヨークのホームレスというと、静かなイメージがあるが、今回はコロナ禍対策で出獄した服役者が多く、中には攻撃的な姿勢を示すこともあり、人々は地下鉄を忌避するようになった。
リモート勤務は、ワークライフバランスを劇的に改善する一方で、通勤事情の悪化に対する最善策でもあった。そこで、出勤を促す企業側と、リモート継続を強く希望する労働者側の綱引きが始まった。
企業側としてはあまり強く出ては優秀な人材の流出を招くとあって、お互いの探り合いという時期が長く続いたのである。コロナ禍が明けて、全てがノーマルに戻ってもこの「綱引き」は続いた。
やがて、23年から4年の時点では、週3日出勤、つまり原則として月曜と金曜は在宅で、火水木のみ出勤というのが、ニューヨークをはじめとする大都市の知的労働者の「常識」として均衡した。企業側は、その後も強く出勤を促しており、現在は週4日出勤という企業も多くなっている。
出勤を促す以上は、オフィスが魅力的でなければ優秀な人材が逃げるということから、豪華なオフィスを建設する動きもある。JPモルガン・チェースは、マンハッタンのパーク街の超一等地に60階建ての完全な新築オフィスを立てたが、オフィス内にはレストランからジムまであり、快適にオフィス・ライフを満喫できるようになっている。
けれども、従業員の評価は厳しく、新社屋と引き換えに出勤を強制されることへの抵抗感は強いということだ。現在はマンハッタン島の治安は、相当に改善が進んでおり、通勤の不安は解消されつつあるが、何と言っても家族を大切にするカルチャーの強いアメリカでは、一旦手に入れたワークライフバランスを手放すことへの抵抗は根強いものがある。
アメリカの場合、リモート勤務への評価はかなり定まっている。そもそも、コロナ禍のはるか以前となる、10年前後からテック業界や、純粋な事務業務、カスタマーサービス(CS)などの職種では、業務のリモート化が進んでいた。セキュリティの確立したネット環境や、カメラとマイクを使ったPCによるビデオ会議、さらには社内のチャット環境などが整備されるに従って、在宅勤務(ワーク・フロム・ホーム)が静かに浸透していったのである。