安川電機、フィジカルAIに1200億円BET…営業利益2倍への勝算と前回未達の課題

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●この記事のポイント
安川電機は2026〜2029年度の新中計「Dash 35」で、営業利益を473億円から1000億円へ2.1倍に引き上げる目標を発表。1200億円の戦略投資でフィジカルAI分野のM&Aを推進しエヌビディア・富士通とも協業するが、中国勢の台頭と前回中計の未達が課題として残る。

 2023年にChatGPTが登場して世界を驚かせて以降、AIへの注目はオフィスワークの効率化から、次第に工場や倉庫、農場といった「現実の作業現場」に広がってきた。ロボットやセンサーが周囲の状況を認識し、自律的に判断・動作するAI、いわゆる「フィジカルAI」と呼ばれる領域である。

 その潮流を象徴する発表が5月22日、産業用ロボット国内2位の安川電機からあった。同社は2026年度から2029年度までの新たな中期経営計画「Dash 35」を公表し、最終年度となる2030年2月期に、連結営業利益を前期(2026年2月期実績473億円)の2.1倍にあたる1000億円に引き上げる目標を掲げたのだ。売上収益は20%増の6500億円を計画する一方、4年間の累計投資額2500億円のうち1200億円を、M&Aや資本提携を中心とする「戦略投資」に充てるという。

 売上の伸びが20%にとどまる一方で、利益を2倍以上に引き上げるという目標は、単なる事業拡大ではなく、収益構造そのものの組み換えを意味する。本稿では、この計画の背景にある業界構図と、実現に向けて指摘されているリスクを、公開情報をもとに整理する。

●目次

ファナックとの「AIの脳」競争

 日本の産業用ロボット業界では、世界最大手のファナックと、それを追う安川電機が長年競い合ってきた。これまでの競争軸はロボットアームの精度や耐久性といった「ハードウェアの性能」が中心だったが、両社が相次いで打ち出した新計画に共通するのは、ロボットに搭載するAI、いわば「脳」の能力が次の競争軸になるという認識である。

 安川電機は2023年の国際ロボット展(iREX)の段階でNVIDIAのロボティクス・パートナーに名を連ね、2025年10月には富士通・エヌビディアとの3社協業を発表するなど、フィジカルAIの実装に早くから取り組んできた経緯がある。これに対しファナックも2025年12月にエヌビディアとの協業を発表し、自社の産業用ロボット約200機種をAIで制御するためのソフトウェアを公開、ロボットコントローラーをROS2に対応させるなどオープン化を加速させた。さらに2026年5月にはグーグルとも連携し、AIエージェントによるロボット操作の実証を進めている。

 今回、安川電機が1200億円というM&A・資本提携の枠を新設した背景には、こうした開発競争が激化するなかで、自社に不足するAI・ソフトウェア技術や、ヒューマノイド開発のノウハウを外部から取り込み、時間を買う狙いがあるとみられる。実際に同社は2025年、ヒト型ロボットを開発する早稲田大学発スタートアップ「東京ロボティクス」を買収しており、今回の戦略投資枠もこうしたM&Aの延長線上に位置づけられる。

 ロボット工学の専門家でロボットエンジニアの安達祐輔氏はこう話す。

「これまでロボットメーカーの競争力は機械工学的な精度や信頼性で測られてきたが、フィジカルAIの時代には、AIモデルの学習データやシミュレーション環境をどれだけ早く整備できるかが優劣を分けます。安川電機の戦略投資枠は、その開発競争に必要な技術や人材を、時間をかけずに獲得するための布石といえるでしょう」