安川電機、フィジカルAIに1200億円BET…営業利益2倍への勝算と前回未達の課題

「売り切り」から「使われ続ける」へ——利益率倍増のシナリオ

 新中計のもう一つの柱は、営業利益率を2026年2月期実績の8.7%から15.4%へ、ほぼ倍増させる目標だ。この水準は、前回の中期経営計画「Realize 25」(2023〜2025年度)でも掲げられていたものであり、安川電機にとって長年の課題でもある。

 この高収益化シナリオの中核に位置づけられているのが、画像処理用GPUを搭載したAI産業用ロボット「MOTOMAN NEXT」だ。形状や位置にばらつきのある対象物への作業など、従来のロボットでは対応が難しかった「未自動化領域」を担うことを想定している。現状の販売比率はまだ低いが、ハードウェアを売り切るだけでなく、AIソフトウェアのアップデートや機能追加によって継続的に収益を得る「リカーリング型」のビジネスモデルへの転換が、利益率改善の鍵になるとみられる。同社の常務執行役員は2026年6月の説明会で、フィジカルAI事業の利益貢献を2029年2月期から見込みたいとの考えを示している。

 応用領域の広がりも特徴だ。これまで自動車工場が中心だったロボットの用途を、食品(衛生対応のスカラロボットなど)、物流、農業(JA全農と連携したキュウリの葉かき作業の自動化など)、さらにはアステラス製薬との合弁会社を通じた再生医療分野(ヒト型ロボット「まほろ」を用いた細胞培養)にまで広げる構想だ。製造業の自動化を支える「プラットフォーム」としての地位を志向しているといえる。

 一方で、市場の評価は一様ではない。国内のあるアナリストからは、フィジカルAIロボットの用途として中心となる「キラーコンテンツがまだない」との指摘も出ている。1980年代に産業用ロボットが自動車の溶接・塗装ラインで急成長した時のような明確な主力用途は、フィジカルAIロボットではまだ定まっていないのが実情だ。

「ソフトウェアやサービスでの継続収益比率を高められれば、業績の安定性という点で評価は変わります。ただし、これは『言うは易く行うは難し』であり、顧客の生産現場にAIをどう定着させるかという実装面の課題は大きいです」(安達氏)

リスク①:急速に台頭する中国メーカー

 この計画の実現を左右しうる最大の外部要因が、中国メーカーの台頭である。中国の調査会社MIR DATABANKによれば、2025年上半期、中国の産業用ロボット市場でエストン・オートメーション(南京埃斯頓自動化)がファナックを上回り、シェア首位に立ったとされる。イノバンス・テクノロジー(匯川技術)も含め、中国の現地メーカーは低価格と開発スピードを武器に、サーボモーターや産業用ロボットといった日系企業の中核領域に急速に食い込んでいる。

 中国政府は2026年から始まる第15次五カ年計画で、ロボティクスと「具身智能」(フィジカルAIに近い概念)を、量子技術や6Gと並ぶ国家優先産業に位置づけている。中国国内の産業用ロボットの国産化率はすでに55%を超えたとされ、富士経済の予測では中国の製造業向けロボット市場は2030年に2024年比で47.8%拡大するという。

 安川電機の業績にとっても、中国市場の動向は無視できない。モーションコントロール事業は中国の電子部品市場の低迷の影響を受けており、中国メーカーの存在感が増すなかで、1200億円の戦略投資が価格競争力・開発スピードの両面で対抗しうる技術や事業を獲得できるかどうかは、今後の検証が必要なポイントだ。

リスク②:繰り返されてきた「未達」という現実

 もう一つ指摘しておくべきは、安川電機自身が新中計の説明資料の中で、前回の中期経営計画「Realize 25」(2023〜2025年度)について「全社業績・財務目標は未達」と総括している点だ。Realize 25では、2025年度に売上収益6500億円、営業利益1000億円(営業利益率15.4%)、ROE・ROICともに15%以上という目標が掲げられていたが、実際の2026年2月期の営業利益は473億円(前期比5.7%減)にとどまり、目標を大きく下回る結果となった。