日本でも進む「在宅勤務廃止」、GMO・熊谷代表の投稿で論争となるリモート勤務の功罪…アメリカとの違いは?

2026.08.05 Wedge ONLINE
(chachamal/gettyimages)

 その頃から経営陣の認識としては、デイリー業務の生産性に関しては、オフィスへの出勤よりリモート勤務の方が優れているという理解がされていた。様々な調査結果もそれを裏付けていた。

 従って、現在でも大雪やハリケーンなどの自然災害、あるいは交通機関のトラブルなどの場合には、ほとんど全ての職場がリモートになるし、場合によっては地方自治体がそのように要請する場合もある。そうした場合にリモートに切り替えることは、経営陣も全く躊躇はない。

 では、どうしてコロナ禍の収束後は出勤を促す動きが出ているのかというと、建前としてはオフィスの何気ない会話の中に新規事業や業務改善の芽があるという説明がされている。同僚間の対面で自由な会話を促すことで、中長期課題解決の生産性が上がるというのであり、一見すると説得力はある。けれども、実際の経営陣の本音としては、対面での雑談がイノベーションに結びつくというのは、あくまでファンタジーであり、根本的な理由は「情報漏洩の防止」に尽きるようだ。

 インサイダー取引に神経質になる中で、情報漏洩が巨額なダメージに結びつく金融機関が、とりわけ出勤に固執するのはこのためだ。また、今年に入ってシリコンバレーのテック系の各企業の多くが、週5日出勤を従業員に強制しているのも、AIの進歩するスピードが加速する中で、独自のアルゴリズムやユーザーインターフェース(UI)の漏洩については、非常に神経質になっているためである。

 シリコンバレーの中では、アップル社など一部の企業では、まだ「週3日出勤」として週2日のリモート勤務を認めている。アップルの場合はそもそも情報漏洩には厳しい一方で、社員のモラルが比較的高いことなどから、リモートに寛容な条件が揃っているようだ。

日本企業が出社を求める2つの事情

 一方で、日本の場合は経営層の中には、例に挙げたGMOのように、出勤への強いこだわりがある。その上で、リモート勤務よりも出勤の方が生産性は高いという信念も強い。この点については、日米で大きな差がある。理由としては2つあるように思う。

 日本の場合は、年功序列人事のために、管理職よりも若手の実務部隊が情報もノウハウも握っている。個別の技術、個別の顧客情報だけでなく、大局的な判断に必要な専門ノウハウにおいても、情報の質量と理解度に上下逆転が起きている。そうなると、管理職としては若手実務クラスを職場に繋ぎ止めて、いつでもブリーフィングさせたいという強い動機が起きる。

 一方で若手の方は自分のタスクに専念したいので、オフィスで質問攻めにしてくる上席の存在は生産性を阻害するという構造がある。これは欧米でもアジアでも見られない、日本独自の問題だ。

 もう一つ、日本型の雇用では個々人の職務範囲を職務記述書で明確化する習慣が薄い。また、職務範囲外の業務に手を伸ばすことがご法度という感覚もない。したがって、管理者や経営者としては、優秀な社員の様子を見ていて、その社員が自分のタスクを終えたらすぐに遅れている他のタスクを振るということでチームの生産性を上げたがる。

 一方で、リモートの場合は手すきの社員が、タスクの遅れがちな他の社員のフォローに自然に回るという動きは取りにくい。そうした点から見て、オフィスに出勤させた方が柔軟に各人にタスクを振れる、従って生産性が上がると考えているのであろう。

出勤かリモートかの議論の先には

 しかしながら、グローバルな競争が加速する現代、こうした日本型の勤務というのは、トータルの競争力には全くならない。スキルと情報のない上席には報酬と権限があり、スキルと情報のある自分にはないという環境、そして優秀であれば仕事が殺到する不公平を放置していれば、優秀な人材は去っていくのが自然だからだ。

 そんなわけで、経営サイドが出勤にこだわる理由というのは、日本とアメリカではかなり差があるように思われる。そうこうしているうちに、出勤かリモートかという論争どころではなく、アメリカだけでなく、日本の場合も、人間かAIかという業務改革の大変革期に突入することになるのではないだろうか。