派遣会社は何のために存在するのか?カルテル疑惑が突きつけたこと…人を企業に紹介することだけが仕事ではない

2026.08.11 Wedge ONLINE

 人材派遣大手5社(パーソルテンプスタッフ、リクルートスタッフィング、スタッフサービス、マンパワーグループ、アデコ)が、2026年6月初旬に公正取引委員会から独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで立ち入り調査を受けた。報道によれば、派遣先企業に請求する派遣料金について各社が足並みをそろえ、値上げを図った疑いが持たれているという。

(takasuu/gettyimages)

 もちろん、カルテルに該当するかどうかは今後の調査結果を待たなければならない。しかし、今回の問題は単に独占禁止法違反の疑いがあるというだけではない。むしろ、この出来事は、人材派遣会社が社会の中でいかなる役割を果たすべきなのか、その存在意義そのものを改めて問いかけているように思える。

 派遣料金の引き上げという点だけを見れば、それ自体を否定することはできない。近年、日本では物価上昇や最低賃金の引き上げが続き、企業の人件費も増加している。派遣社員の待遇改善が社会的課題となる中で、派遣料金を引き上げなければ十分な賃金改善は難しい。実際、「同一労働同一賃金」の導入以降、派遣会社には従来以上に処遇改善への対応が求められている。

 つまり、派遣料金の値上げそのものは、現在の社会経済状況を考えれば一定の合理性がある。だからこそ、今回問われているのは「値上げしたこと」ではなく、「競争によって決まるべき価格を競争事業者同士で調整した疑い」である。しかし、ここでもう一つ考えなければならないことがある。

派遣料金は誰のために使われるのか

 それは、引き上げられた派遣料金は、誰のためのものなのかという問題である。派遣料金は、そのまま派遣社員の賃金になるわけではない。派遣会社の営業費用や教育費、管理費、利益なども含まれている。

 そのため、派遣料金が上昇したとしても、それが十分に派遣社員へ還元される保証はない。もし料金だけが上がり、その利益が派遣会社にとどまるのであれば、派遣会社が介在する意味そのものが問われることになる。

 では、派遣会社は何のために存在するのだろうか。派遣会社はこれまで、企業と労働者を結び付け、必要な時に必要な人材を供給する「労働力の需給調整」を担ってきた。しかし、その機能は企業に柔軟な人員調整を可能にする一方で、雇用の不安定さや景気変動のリスクを派遣労働者に集中させる側面も有していた。

 実際、派遣切りや低賃金、ワーキングプアの問題を通じて、派遣という仕組みが労働者の生活を不安定にする危険性も明らかになった。だからこそ、人材不足が深刻化し、働き方が多様化した現在、派遣会社の存在意義を、単なる人材の供給や需給調整だけに求めることはできない。

 仕事を紹介するだけでなく、キャリア形成を支援すること、能力開発の機会を提供すること、ミスマッチを防ぐこと、就業後の相談やフォローを行うことなど、働く人の職業人生全体を支える機能がこれまで以上に重要になっている。派遣会社が得るマージンは、こうしたサービスを提供するための対価として社会から認められるべきものである。逆に言えば、派遣料金が上昇しても、こうした付加価値を十分に提供できていなければ、「派遣会社は何をしているのか」という疑問は避けられない。

データが示すキャリア支援の現実

 厚生労働省の「令和4年派遣労働者実態調査」を見ると、派遣労働者の65.5%が過去1年間に何らかの教育訓練を受けている。したがって、派遣会社や派遣先が能力開発をまったく行っていないわけではない。しかし、その中身を詳しく見る必要がある。

 派遣先で受けた教育訓練は37.4%、eラーニングは35.0%、派遣元で受けた教育訓練は31.2%であるのに対し、外部の教育訓練機関などで受けたOFF-JTは5.7%にとどまる。派遣元での訓練は入職時研修、派遣先では日々の業務を通じたOJTが中心である。