アメリカで広まる「日本発国債暴落ドミノ」説…円安退治の協調介入、ベッセント財務長官が「伝家の宝刀」を認めたのはなぜか?

2026.08.18 Wedge ONLINE

 この夏から秋にかけて、仮に株価の暴落、雇用と消費の低迷、そして国債の暴落や不動産バブルの崩壊などが起きれば、これは政権の浮沈ではなく生死に関わる。そして一つの破綻は全体に波及する。不動産バブルの崩壊はAIバブルの崩壊を誘発して、そこに個人のクレジットカード負債の大規模な破綻が加わればリーマンショック級のパニックが起きる可能性は否定できない。

 ベッセント長官は、何よりもこのことを理解しているであろうし、ここで米国経済を破綻から守り、大統領が中間選挙を生き延びるように政権を支えることは、人生後半の大勝負という理解はしているに違いない。そのことを前提に、市場の申し子であるベッセント氏は一体どうして円の防衛という一見すると米国経済にはメリットの薄い政策に突っ込んでいったのであろうか。まずは政治的動機を考えてみたい。

「日本発の国債暴落ドミノ」説の火消し

 政治的にはベッセント氏が円防衛の応援に入る動機はある。まずは、ボスであるトランプ氏とそのコアの支持者にある「80年代のトラウマ」を利用したのは間違いない。

 日本が自動車と電子製品について「集中豪雨的輸出」を行って米国を追い詰めたという記憶は団塊世代には鮮明であり、彼らは当時の「円高ドル安が救い」だという思いを強く刷り込まれている。ベッセント氏はこれを利用したことは想像に難くない。加えて、対中国の微妙な距離感を維持するには、ここで日米両政権の結束を誇示しておくことは得策という計算もあったであろう。

 けれども問題の核心はそこではない。市場の申し子であるベッセント氏としては一つ大きな動機があったと考えられる。それは、Z世代のインフルエンサーや投資たちが2026年に入って声高に叫び続けている「日本発の国債暴落ドミノ」という説を「徹底的に潰しておく」ことである。

 試しに YouTube で "japan debt crisis" というキーワードで検索してみると無数の動画が出てくる。その多くに共通するのは国内総生産(GDP)の200%を超える日本の国家債務に対する素朴な驚きに発し、日本が破綻回避のために米国債を売却することで米国の金利が制御不能になるというストーリーだ。

 彼らは日本国債の相当部分が自国内の個人金融資産と相殺されているといった基礎的な知識がなく、ほとんど陰謀論のように不安を煽っているだけだ。けれども、このような若手の世論がいつの間にかネットの言論で大勢を占めると国際市場に対して一定の影響力が出来上がってしまう。それは米国債への売り圧力につながるし、その延長にはAIと不動産バブルの崩壊という破綻も可能性としては否定できない。

 この「日本発の国債破綻ドミノ」という不安心理というか、市場心理を「今のうちに潰しておく」というのが、ベッセント氏の今回の行動の主要な目的であったと考えられる。ここまでお話していて、多くの読者は不思議に思うかもしれない。ドル売り円買いという今回の協調介入というのは、それ自体はドルを弱める行動であり、米国の側としては危機回避にはならないのでは、という疑問である。当然の疑問であるが、そこにベッセント氏の真骨頂があると言えよう。2点指摘しておきたい。

 1つは、今回の介入は「協調介入」とされているが、米国側としてはその規模は極めて抑制されており、ドル円の2つの通貨の間での調整であっても、世界的なドル安にはならない範囲での限定的な規模に収まっているということだ。

 2つ目は、これが一番大切なのだが、介入にあたって米国債を売却「しない」方法が導入されつつあることだ。まず、米国側の円買い資金は、ドルを直接投入するのではなく、ユーロを売った資金が使用されたとされる。

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