では、出荷予約した数量はどのくらいかというと3万トン(t)程度で、千葉県で生産されるコメの1割程度に過ぎない。大半のコメは生産者が直接商系集荷業者、卸など流通業者、さらには外食業者など実需に販売しているのであり、これが市中で取引される価格で、コシヒカリは1万3000円~1万4000円程度で取引されている。メディア等で「千葉の概算金1万8000円」と報じられると、それが今年の新米価格のように思われるかもしれないが、大半のコメはそれよりも大幅に安い価格で動いているのである。
これは千葉県だけのことではなく、コメどころ新潟県や秋田県でも同じである。新潟県はコシヒカリの概算金を1万8500円、秋田県はあきたこまちを1万8300円にしたが、市中で取引されている価格はそれよりも大幅に安く、新潟コシヒカリで1万6000円程度、秋田あきたこまちは1万4000円程度である。
つまり農協系統の概算金とはあくまでも農協系統の希望価格であり、実際に販売できるであろう価格ではないのである。全農系統の相対販売価格はあくまでも「建値」希望価格であることを理解しなくてはならない。
過去、農協系統が全国で流通するコメの半分を扱っていた「自主流通米」制度時代は、全農系統の建値はコメの価格を左右する力があったが、現在では流通量の3分の1も扱っていないのであり、そうした力はなくなっている。
コメ取引の実勢価格を知るには民間の仲介業者が行っている売り買い価格や成約価格を見れば良いのだが、これはその仲介業者の会員社にならないと見られない。一般には、コメ卸業界団体である全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)の子会社クリスタルライスがホームページで一部の銘柄に限って成約価格の平均値を公表しているに過ぎない。
クリスタルライスは定期的に取引会を開催しており、産地の集荷業者等から募った売り物をまとめて卸に提示して成約に結び付けている。参考までにコメ不足で価格が高騰し始めた昨年5月から今年8月までの取引会の数量や価格を示すと以下のようになっている。
これで明らかなように、価格が高騰した昨年5月の加重平均価格は1俵(60キロ)4万7935円にもなったが、それが今年8月には1万4929円と3万3000円も下落している。まさに暴落という表現がぴったりだ。
なぜ、これほどまでに価格の乱高下を繰り返すのか? その最大の原因は農水省が改正食糧法という法律を作り、巨額の税金をつぎ込んで生産調整を行うなどしても需給を安定させられていないからである。
農水省は、与党自民党に配布した「食糧法改正の背景と概要」の中で、米価高騰の要因と対応の検証として「生産量(玄米ベース)は足りているとの認識の中で、 ①流通実態の把握に消極的であり、マーケットへの情報発信や対話も不十分。 ②政府備蓄米についても、不作時に備蓄米を放出するというルールの下、放出時期が遅延。こうした対応の下で、卸売業者等の不安感を払拭できず、更なる価格高騰を招致」としている。
その上で今後の方向性として①需給の変動にも柔軟に対応できるよう、官民合わせた備蓄の活用や、耕作放棄地も活用しつつ、増産に舵を切る政策への移行②農地の集積・集約、大区画化や、スマート農業技術の活用、新たな農法(節水型乾田直播等)等を通じた生産性の向上③米国の関税措置による影響を分析しつつ、増産の出口としての輸出の抜本的拡大④精米ベースの供給量・需要量や消費動向の把握等を通じた、余裕を持った需給見通しの作成と消費拡大⑤流通構造の透明性の確保のための実態把握や流通の適正化を通じた消費者・生産者等の納得感の醸成⑥作物ごとの生産性向上等への転換、環境負荷低減に資する新たな仕組みの創設等を通じた水田政策の見直しー―をあげている。
米価高騰の要因として挙げているマーケットの不透明性は、すでに述べてきたように、農協系を代表とする概算金の運用実態であり、それへの誤解である。その解決につながり得る価格を形成する現物市場や価格平準化作用のある先物市場への言及は全くない。需給情勢を反映するコメ市場を整備して、ここで形成される価格を生産者、流通業者、需要者に発信することによってはじめて「価格に見合った生産や需要」が実現できるのである。
その解決策は、「増産」や「スマート農業」「輸出の拡大」などではない。コメの市場整備をなくして需要に見合った生産などできるはずはなく、このままではまた価格の乱高下を引き起こしかねない。