新国立競技場はサッカーの「真の聖地」になるのか

新国立競技場で開催された今年の天皇杯決勝(筆者撮影)

2020年東京オリンピック・パラリンピックイヤーの幕開けを飾る第99回天皇杯決勝・ヴィッセル神戸対鹿島アントラーズ戦が元日に行われた。その舞台となったのは完成したばかりの新国立競技場だ。

昨年末の12月21日にこけら落としイベントが盛大に開かれたものの、スポーツイベントとしては天皇杯決勝が初。日本サッカー協会の田嶋幸三会長も「重要な五輪のテスト」と位置づけ、入念な準備の下、当日を迎えた。

新国立競技場の外観(筆者撮影)

好天に恵まれた新年初日。最寄駅の1つである外苑前駅が銀座線の運休で使えず、JRと都営大江戸線の利用に偏るため、アクセス面で多少の混乱があるのではないかと懸念された。

だが、開門がキックオフ3時間前の11時35分に設定され、それに合わせて早めに訪れた観戦客が多かったのがまず幸いした。チケット保有者がどのゲートからでも入場できるようにしていた点も奏功し、5万7000人超の大観衆の流れは比較的スムーズだった模様だ。

ただ、年初時点では、周辺道路の工事が終わっていないため、人々が移動しづらい環境だったのは確かだ。車いす観戦者が地上の道路で混雑に巻き込まれ、困惑する様子も見受けられた。すべての工事が完了し、周辺の柵が取り払われた後は道路幅も広がるというが、現状ではバリアフリー対応が十分とは言い切れないところがあった。

利便性はまだ改善の余地がある

2階コンコースをチケット保有者の往来に限定していた点も懸念要素の1つ。

新国立競技場の脇の歩道はやや狭い(筆者撮影)

千駄ケ谷駅から新国立へ行く最短ルートである東京体育館横を通って連絡橋に出るルートを例に挙げると、チケットがない者は「先には進めません」と一蹴されてしまう。

われわれ報道陣はもちろんのこと、ほかの関係者や近隣住民も同様だった。東京体育館裏の階段で道路に下りようとしてもこの日は封鎖中。結局、千駄ケ谷駅までいったん戻り、別の道を大回りするという不便を余儀なくされた。

昨年12月にEAFF E-1選手権取材で赴いた韓国・釜山のアジアード・スタジアムでは最寄りの地下鉄駅から連絡橋で直結しており、コンコースを周回しつつ、何カ所かある階段から下のフロアへ行ける構造になっていた。だが、新国立はまったく事情が違った。今後の運用が未定だが、敷地が広がった分、移動の負担が増したのは事実。2階コンコース外側部分を自由通路にするといった利便性向上を模索していくことも今後の課題だろう。

メディア入り口は外苑側。そこから建物内まではスタジアム外周の約4分の1の距離を歩くことになった。やっとの思いで中に入り、2階のメディアルームの扉を開けるとさすがは五輪仕様。十分な広さが確保されていた。

千駄ケ谷から東京体育館横を進むと新たに作られた連絡橋と新国立の外観が見えてくる。(筆者撮影)

縦長のスペースでやや使いにくそうだったが、真新しいデスクが並び、通信環境も整備されるなど2014年までの旧国立とは比べ物にならないほど快適だった。地下1階の記者会見場は臨時で会議室があてがわれたため狭く、ミックスゾーンは逆にかなり広い。

記者席はメディアルームから階段を上ってすぐの1階メイン側中央だが、これは五輪までの仮設。田嶋会長は「今回はみなさんがいちばんいい場所で試合を見た」と報道陣に語ったが、埼玉、豊田(愛知)、吹田(大阪)などのサッカー専用スタジアムに比べると傾斜が緩く、ピッチが遠く感じられた。

「(1階メイン側右隅の低い位置に記者席がある)日産スタジアム(横浜)よりはまし」という意見もあったが、見やすさや臨場感は球技専用スタジアムを上回るレベルではなかった。