部門対立がバカらしくて仕方ない人への処方箋

人間に刻み込まれたDNAともいえます(写真:Amenic181/PIXTA)

世の中には理不尽な問題がたくさんあります。あるメーカーに勤めていた知人が直面した割とよくみかける理不尽な問題について紹介しましょう。

主力製品のブランドの名前を聞けばかなりの方がご存じのはずのメーカーの話です。そのブランド力のおかげで過去20年間の業績はそれほど浮き沈みなくやってこられている優良企業。ただ社員としては悩みがある。このメーカーでは製品部門と営業部門がとにかく仲が悪いのです。

部門対立に腹を立てた男の告白

私の知人は数年前にこの会社に転職したのですが、営業部門に配属されて初めてここまで現場同士が対立しているという内情を知ったそうです。情報が入ってこないとか、当たり前の社内連絡に対して反応してくれないといったことで日常的にフラストレーションがたまるうえにそのせいで無駄に業務も増える。「いいかげんにしてほしい」と部門対立に腹を立てていたそうです。

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あるとき、直接被害を受けたわけではないですが同僚が関与する仕事でサボタージュ(業務妨害)ともいえる嫌がらせを目撃したそうで、私に相談を持ちかけてきたのです。今回はこういった問題がなぜ起きるのか、そして最後に彼がどう解決したのかという話をします。

昨年のラグビーワールドカップでも話題になった「ワンチーム」という言葉があります。会社組織も理想としてはワンチームであるべきで、協力し一丸となってよい製品を顧客が喜ぶ形でお届けするというのが当たり前だと彼は常々考えてきたそうです。

ところが私のようにいろいろな企業を目撃(?)してきた経験から言っても、彼が転職した会社のように部門間の対立が激しい組織というものはそこそこの比率で存在します。

そして知っておくべきこととしては、このような組織間の対立は社会学の研究では自然に発生することが確認されてきた現象だということです。人間社会では対立のほうが自然な状態で、ワンチームという理想状態のほうがむしろ人工的であって、指導者やチームメンバーのたいへんな努力のうえで初めて成立する特別な状態なのです。

映画監督のスティーブン・スピルバーグがプロデューサーとして人間の対立の問題を正面から取り上げた『HATE』というテレビドキュメンタリー番組があります。アメリカの人種間対立、キリスト教世界とイスラム世界などわたしたちの世界は対立と抗争に明け暮れている。その理由を知りたいと考えた骨太な構想の番組でした。番組によれば組織間の対立は、表面的には思想や信条が2つの陣営を分断するといいます。

知人の会社の例でいえば、営業部門は顧客である卸や小売店を大切に考えています。しかし製品部門はそうではなく商品価値を大切に考えエンドユーザーである消費者を大切にします。2つの組織の視点が違うと、さまざまな事柄で対立が発生するようになります。

例えば営業が値引きをすることを製品部門は極端に嫌います。小売店で信じられないような低価格で自社製品が売られているのを見て製品部門の社員は「涙が出るほど悔しい思いをする」と語ったそうです。しかし営業部門から見て流通支配の現状を考えれば販売店のルールに沿った営業努力を行う以外に製品を小売店に並べていく方法はありえない。その実情を理解しない製品部門に腹を立てます。

お互いをまったく受け入れられないほど

こういった思想的対立が続くことで、その会社では営業は「うちの製品力では値下げをしなければ売れない」と信じ、製品部門は「値下げをするからまともな値段では売れなくなる」と信じるといった具合で、お互いをまったく受け入れないほど考え方にずれが生じていたそうです。