銚子丸が「人が辞めない会社」に大転換できた訳

小室:お話を聞いていて思い出されるのは、私たちが4年間コンサルティングに入っていた愛知県警察さんの働き方改革です。暴力団対応の刑事さんたちの部署では、事件が起きると刑事たちは一斉に現場に詰めかけ何日も張り込みが続きます。企業でいう、繁忙期ですね。かつては体力が尽きるまで皆で張り込みを続けていたのですが、働き方改革の取り組みの中で、現場の状況を見定めて、リーダーは「10人中2人は署に戻れ」といった「戻る」指示を明確に出すようになりました。

そうすることで束の間の休息がとれて次の事件に備えられて、なんと検挙率があがって表彰されたのです。つまり、大切なのは繁忙期に向けて高いエネルギーを維持すること。そのために思い切って「いったんしゃがみこむ」ことが重要なのですね。

石田:まさに、銚子丸でも従業員がしっかり休息を取って質の高い接客をしたところ、なんとトータルでは売り上げが下がりませんでした。店休日を事前にしっかり周知したこともあり、店休日をご理解いただいたうえで別の日に来店いただけたのだと思います

小室:なるほど。「うちは銚子丸のお寿司と接客が好きだからまた別の日に来よう」となるわけですね。100人採用して100人辞められていたころの悪循環が、働き方を変えたことですっかり好循環に変わっていますね。

「付箋ワーク」で社員のやる気を引き出す

石田:私が「働き方改革」で大切だと思っているのは残業時間を削減して休暇を気軽に取得できる体制を整えると同時に、しっかり生産性を上げて業績を向上させていくことです。

小室:そこが大事ですよね。生産性を上げるために何をされたんですか。

石田:従業員のモチベーションを高めることから力をいれました。チームの働き方を変えるために行う、メンバー全員参加の会議を進めて、中でも、付箋を使ってディスカッションする「付箋ワーク」で成果が出たという報告を受けています。

小室:店舗で、板前さんも参加して、皆で付箋ワークをされたんですか?

石田:モチベーションを高めて、生産性をあげるのに、付箋ワークが非常に効果的だったと感じています。たとえば南船橋店の店長は以前から「店舗清掃」に力を入れたいと考えていたんですが、皆どうしても目の前の仕事に追われて、なかなか具体的な行動に移せませんでした。

そこで付箋ワークで、メンバー全員でどうしたら店舗清掃のレベルをあげられるかアイデアを出すことに。「キッチンのシャリ置きを、いつ・誰が清掃するか決めたらいいのでは」といった具体案と担当割を自分たちで付箋で出し合って決めました。それまで本部からのチェック項目をこなすだけでは達成できなかったことが、今期なんと衛生チェックでAAA(トリプルA)の評価を獲得したんです。

小室:それは大きな成功体験ですね。

石田:パートさんが「経営者目線」で意見を述べるようになったという変化もあったようです。

小室:パートさんが経営者目線で?

石田:付箋ワークで、コロナ禍でも売り上げをあげるためには「お土産」に力を入れようと皆で決めたそうです。そんな中、板前さんがこしらえたお土産をチェックしたパートさんが、板前さんにダメ出しをしたんだそうです。「この盛り付けではだめです。もっとキレイにお願いします」と。

小室:なるほど。指示されたからではなく「自分たちで決めてチームワークで達成する」という風土ができたからこそ、パートさんは自分の職位で遠慮してしまわずに意見を述べられたわけですね。

石田:実は私自身は今まで、「チームワークで生産性を上げる」というやり方が得意ではありませんでした。親分・子分の関係で指示することはできても、チームワークが苦手。だから、人手不足の中ではチームワークで成果を上げる必要があることが頭では分かっていても、うまく指示を出せませんでした。