「あえて仕事しない」が日本でも当たり前になる日

3つ目は「センス(SENCE)型」。周囲に合わせて生きてきた人が、一時的に自分の時間をゆっくり取って、感性を回復させていくのがこれにあたる。

4つ目は「パワー(POWER)型」。留学や長期の旅行、学び直しやボランティアなど、挑戦するために離職や休職をするタイプだ。

実際には「療養の目的で離職したが、回復したあと海外で学び直しをした」というように、1度のキャリアブレイクでもそれぞれの型がまざりあうこともあるだろう。それほど無職・休職期間の過ごし方は多様で、「怠けている」という言葉だけで説明できるものではない。

しかし、そうした実態にもかかわらず、無職・休職はネガティブなイメージを持たれてしまうことに違和感を感じてきたと北野さんはいう。

北野さんと筆者が開催したキャリアブレイク勉強会の様子。明るい雰囲気が印象的

「現状、日本ではキャリアブレイクの認知度が低く、『履歴書の空白は人間の価値を下げる』というイメージがあります。そうしたイメージは、当事者たちを苦しめる呪いです。そんな呪いに対して違和感を覚えて、キャリアブレイクを文化にする活動を始めました」

「両利きの経営」に活きるキャリアブレイク

企業でマネジメントに取り組む方の中には社員の無職や休職期間を肯定したり、キャリアブレイク経験者を雇用することをリスクと捉える人もいるだろう。

北野さんは「そうしたとらえ方も理解できる」といいつつ、「むしろキャリアブレイクを後押しすることが、企業のリスクを減らす場合もある」という。どういうことなのだろうか。

北野さんが参照するのは、アメリカを代表する組織経営学者であるチャールズ・A・オライリー教授が提唱した「両利きの経営」という考え方。「既存事業の改善(知の深化)」と「新規事業に向けた実験(知の探索)」を両立させることで、大企業が新興企業に立ち遅れる「イノベーションのジレンマ」を乗り越えることができるというものだ。

北野さんはこの考え方を挙げながら、「近年では優秀さの定義が変わってきている」と語る。社会全体が成長していた時代には「既存事業の改善(知の深化)」を担う人が優秀だとされてきた。しかしモノやサービスがあふれ、成長がピークに達した成熟社会では「新規事業に向けた実験(知の探索)」を担う人の優秀さが必要になるという。

「『既存事業の改善(知の深化)』をする人が企業にとっての利き腕だとするなら、『新規事業に向けた実験(知の探索)』をする人は利き腕ではないので、常日頃から成果を出すわけではありません。しかし、経営が危機的状況に陥ったときや、 市場が成熟しきって既存事業では成長が見込めなくなったときに、大きな能力を発揮するんです」

「新規事業に向けた実験(知の探索)」を担う人の能力とはなにかといえば、「問う力」だという。社会や企業で当たり前だとされていることに対して、疑いを向けること。だからこそ、企業のリスクを察知し、あらたなイノベーションの萌芽をつくりだすことができる。

そして、その「問う力」を育むのが、キャリアブレイクなのだそうだ。

「無職や休職って、一見怠けてるように見えるかもしれません。 でも、その期間は『問う時間』なのです。経済活動から距離を置きながら、『どうして社会はこういう仕組みなのだろう』『なぜこういうサービスがないのだろう』『自分にはなにができるだろう』と考えている。キャリアブレイクを経ることで『問う力』が育まれ、優秀になることがあるのです」

「問う力」は、これまで多くの企業で、企業の方向性に疑問を呈する「めんどくさいやつ」として疎まれることもあったはずだ。しかし、そうやって「問う力」がある人を排除した「利き腕だけの経営」が暴走のリスクを孕んでいることは、昨今の企業の不祥事にもあらわれている。