ネットフリックス「大復活劇」の先で迎える正念場

ある業界関係者は「(イギリスのスポーツ専門配信サービス大手の)DAZNの値上げが進み、会員数が頭打ちになる中で、そこからの会員奪取を狙っているのではないか」と話す。

もっとも、このタイミングでスポーツ参入を決断した背景には、別の事情も見え隠れする。2023年にネットフリックスを悩ませ続けた、ハリウッドの脚本家や俳優らによるストライキの影響である。

脚本家の労働組合は2023年5月、賃金引き上げや動画配信における報酬の見直し、AI(人工知能)の使用制限などを求めてストライキに突入。7月からは俳優らでつくる労働組合も加わり、「同時スト」に発展した。

ネットフリックスの本社前でも大規模な運動が起こり、業界全体で映像作品の製作がストップする事態に陥った。結果的に9月末~11月上旬にかけて、脚本家と俳優それぞれの労使交渉が合意に達したことで映像製作は再開にこぎ着けた。ただ、製作が一時的に停止した影響により、2024年後半から新規作品の公開に遅れが出るとみられている。

仮に今後も同様の事態が再燃し、製作現場がたびたび混乱する状況に陥れば、オリジナルのドラマや映画作品によって差別化を図ってきたNetflixにとっては大きな痛手となる。その意味で、ストライキなどの影響を受けないスポーツ配信の強化は、事業の安定化を図る狙いもあるとみられる。

ストライキが後押しした姿勢の変化

大規模なストライキが促した方針転換は、ほかにもある。

ネットフリックスでは、作品の視聴時間などに基づいたクリエーター側への報酬還元の仕組みはとらず、配信前に作品のライセンスを一括で買い付ける形式が一般的だった。そのため上位作品のランキングを除き、視聴データはいっさい公表されてこなかった。

ネットフリックスの視聴数上位にランクインした日本作品

しかしストライキでの合意内容として、作品ごとの視聴データに応じた報酬還元が盛り込まれたことで、2023年12月にはほぼ全作品の視聴データ開示に踏み切った。

U-NEXTなどの日本の配信サービスでは、作品の視聴時間に応じて報酬が決まるレベニューシェア形式が広く採用されており、以前から事業者向けに視聴データが提供されている。そのため日本の映像制作会社の間では、視聴データをまったく提供しないNetflixに対する不満の声も少なくなかった。

シリーズ作品であれば、前作品の視聴データは次回作の配信権価格を決める際の重要な交渉材料となる。しかし視聴データがわからないままでは、作品を販売する権利元が不利な状況に置かれかねない問題も存在していた。

2024年は真の実力が問われる年に

魅力的な作品があってこそ成り立つネットフリックスにとって、クリエーター側との信頼関係は、持続的成長に欠かせない重要な要素だ。あるアニメ制作会社の幹部は「視聴時間がさっぱりわからなかった状況から比べると、かなりの前進だ」と、ネットフリックスの姿勢の変化を評価する。

今後はあらゆる作品の視聴データが公開情報となるため、高額予算の作品が失敗した場合などには投資家から厳しい指摘が出てくる可能性もある。

グレッグ・ピーターズ共同CEOはビデオ会見の締めくくりの中で、「広告ビジネスの成長」「会員の増加」「価格の最適化」を2024年の優先事項として掲げた。特殊要因がなくなり、「通常のビジネスに戻る」(ピーターズ氏)2024年は実力が試される分、よりいっそう重要な1年となりそうだ。