新幹線、実は「摩擦力を使わず」止めている?知られざる電車のブレーキの意外な仕組み

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島根県の一畑電車を走る7000形電車の運転室。デスク上の操作盤に左右2本のハンドルが並ぶうち、ブレーキハンドルは右側で、ハンドルの操作だけで電力回生ブレーキも自動的にかかる。雲州平田駅にて 2017年3月22日 一畑電車社員立ち会いのもと筆者撮影

 あるとき、自動車を買いに来た顧客がディーラーの担当者に次のように尋ねたという。

「この車のエンジンブレーキはどこにありますか」

 エンジンブレーキとは何か、そしてその操作方法は自動車の運転免許を取得する際に習うけれど、どこに付いているのかという問いには答えにくい。文字どおりエンジンに付いているようにも思われるが、ギアを低速段に入れたときの特性を活用しているのだから変速機に付いているとも考えられる。辞書を引くと、車輪の回転からエンジンのピストンを動かしたときの圧縮摩擦抵抗で速度を落とすとあったから、車輪とエンジンとに付いていると言ってよさそうだ。顧客は軽い気持ちで聞いたにしろ、なかなか奥深い質問であったことは間違いない。

 さて、モーターで動く鉄道の電車や電気機関車にもエンジンブレーキのようなブレーキが存在する。電気ブレーキだ。

 回転している車輪のエネルギーを電気のエネルギーに変えて作動させるブレーキと定義されているとはいえ、この説明では誤解が生じやすい。車輪の回転で発電機を動かし、その電気で車輪やブレーキディスクを摩擦力で押さえるブレーキを指すようにも思われるが、このようなブレーキは電気ブレーキではない。前回説明したような摩擦力で止めるブレーキの一種である。

 電気ブレーキとは、車輪の回転で生じた電気そのもので車輪の回転を止めるブレーキを指す。大きく分けて2種類ある。

 一つは車輪の回転によって通常は走行に用いているモーターを発電機として使用し、そのときに生じる抵抗力で車輪の回転を止める発電ブレーキだ。発電された電気は消費されないとブレーキは効かない。車両が搭載した抵抗器に流して熱として捨ててしまう方式を抵抗ブレーキ、架線に戻して他の列車が加速するのに役立てる方式を電力回生ブレーキという。

 もう一つは電磁誘導ブレーキだ。国内では車輪に装着したブレーキディスクの周りに電磁石を置き、電磁石に電気を流すと渦状の電流が発生して車軸の回転を止めようと働く作用を活用したブレーキが実用化されており、渦電流(うずでんりゅう)ブレーキともいう。

 海外では電磁石がレールを吸い付ける力を利用する電磁誘導ブレーキも実用化されている。このようなブレーキの場合、電磁石とレールとは接触していない。似たような仕組みとして箱根登山鉄道の電車には、電磁石をレールに触れさせてその吸引力で車両を止める電磁摩擦ブレーキ、またの名を電磁吸着ブレーキが搭載されている。ややこしいが、こちらは文字どおり摩擦力を用いたブレーキなので電気ブレーキではない。

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広島県の広島電鉄を走る5100形電車の運転室に装着されたマスコン・ブレーキ両用のハンドル。後ろに引くとマスコンハンドルとなって電車は加速する。ブレーキをかけるときはハンドルを前に押す。その際、電力回生ブレーキはやはり自動的に作動する。千田車庫にて 2010年1月27日 広島電鉄社員の立ち会いのもと筆者撮影

電力回生ブレーキは効き目も強力で省エネ

 いま国内の電車や電気機関車に搭載されている電気ブレーキの大多数は電力回生ブレーキだ。発電された三相交流の電力は、普段は加速に用いているコンバータやインバータによって架線に流れている直流か単相の交流に変えられて架線へと戻されていく。電力回生ブレーキを作動させるためだけに必要な機器を搭載しなくてよいし、効き目も強力で、しかも省エネと言うことなしだ。