障がい者の岡部さんが入社して、ライフネット生命の社内全体、社員一人一人が変わった

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小学校で講演する岡部祐介さん

 こうしたことは外部のイベント時の対応にも、いかんなく発揮されました。同社はLGBTQの活動も積極的に行っていて、毎年ゴールデンウィークに渋谷で開催される「東京レインボープライド」というイベントにブースを出しています。参加者の方がフォトブースで写真を撮られると、1人につき100円ずつ同社がチャージをして、そのストックを元に全国の図書館等にLGBTQの理解を深めるための児童書を寄付する活動を行っています(2020年は中止、2021年はオンライン開催)。そのイベントには、ろう者も多数訪れますが、今では当たり前のように社員はろう者の方にジェスチャーや筆談で対応できるようになりました。

ダイバーシティという言葉の持つ意味の広がり

 同社にとって、岡部さんは、どんな存在なのでしょう。森亮介代表取締役社長はいいます。

「当社は創業以来『ダイバーシティ(多様性)』を強みとしていますが、5年前に岡部さんが入社されて以降、ダイバーシティという言葉の持つ意味の広がりを、社員がより解像度高く認識できるようになりました。ダイバーシティを活かすためには、自分とは異なる他者への想像力を働かせながら対話していくことが、とても大事だということを実感しています。また、最高の結果を出すためにコンディションを管理して自分自身と戦う岡部さんのアスリートとしての姿勢は、高いプロ意識を持つ他の社員の模範になっています」

 岡部さんに今後の抱負を聞きました。

「業務では、もっとビジネススキルを向上させていきたい。環境に甘んじてはいけないと思いますし、まだまだ勉強することばかりですが、当社は、ろう者の私でも本当に安心して働ける会社だと感じています。ろう者が社会に出ると、日本語は第二言語だということが企業や職場に理解いただけず、業務能力が低く評価されてしまうケースもあると聞いています。たとえ、ろう者を理解してもらえない状況であっても、良い関係性を築き、チャレンジしていかなければならないとも考えます。

 活躍の場が広がるにつれて、聴者との関わりも多くなります。陸上競技では走るのは私一人ですが、そのためには大勢の方がいて、みんなとのチームプレイなのです。だから、社会人としてもアスリートとしても、どんなに大変でも、決して逃げ出したりはできない。支えてくださる大勢の方への責任でもあります。

 デフリンピックの知名度を上げるため、聴覚障害で悩んでいる子供のためにも、アスリートとして邁進していきたいと思います。まだまだ未熟な私ですが、みなさまにご指導をいただいて、全力で取り組んで参ります。来年のデフリンピックは、今度こそ表彰台に昇りたいですね」(岡部さん)

 メダルの期待がかかる岡部さんに、世界を代表するアスリートの方や元プロスポーツ選手も、ろう者としてではなく、一人の現役アスリートとして生き方や競技に関するアドバイスを惜しみなくしています。岡部さんも「聴者の方と一緒に競技をしても負けない力をつけたい」と語ります。

 最後に、とても残酷な質問を岡部さんにしてしまいました。「親を恨む?」と、岡部さんは不思議そうに筆者に聞き返しました。

「両親は、いつも私の最大の理解者であり、応援をしてくれました。私のためにできることはすべてやってくれました。どれほどの時間と労力とお金を費やしたのかと思うと、感謝しても足りないぐらいです。暖かな家庭で育ててもらったからだと思いますが、家族に感謝しても恨むということは一切ありません。

 ただ、耳が聞こえたら、どんな人生を歩んでいただろうとは思います。また違った人生だったんだろうなと思うことは何度もありました。でも、自分に言い聞かせていることがあります。誰かを傷つけるようなことをした覚えはありません。恥じる生き方をしたつもりもありません。だから、胸を張って生きていいんだと」(岡部さん)